無能社員の俺、酒の席で孤独を感じ一人ネガる
白川津 中々
◾️
「駄目だね、この会社は」
もう何杯目かのジョッキを空にしてAくんはわざとらしく肩をすくめた。
「そうだね。早く辞めた方がいい」
それに同調した別部署の上司Bさんは更に続ける。
「社長、新築しただろ。知っているかは分からないけど、俺らが汗を流して働いている間、お気に入りの奴に引越しを手伝わしたんだってさ。特別休暇なんていって休ませて」
「へぇ、そりゃあ……俗ですね」
「そうなんだよ。それでもって引越し終わらせたら数千円だけ渡し帰したらしいよ。部屋には女がいたんだってさ」
「なんだかなぁ。辞めるか」
「辞めな辞めな。Aくんならいくらでも先はあるよ」
「業態的にも先がなさそうですからねぇ」
「……」
俺は話に入れなかった。
率先して会社批判をしなかったのは愛社精神があるわけでも社長に義理立てしているわけでもなく、他に入社できるような会社がないから、つい神妙になってしまったからだ。
AくんとBさんは優秀だから、仮に退職したとしても次は簡単に決まるに違いない。だが俺は、やっとの思いで入社できた俺には、もはや次などないのである。
追加の酒を頼み、楽しそうに杯を傾ける二人は、いつか辞めてしまうのだろう。俺は彼らが好きだし一緒に働いていたい。しかし、今の職場がAくんBさんに相応しくないのであれば、少なくとも二人がそう思っているのであれば、早急に環境を変えた方がいいし、実際そうなってしまうのだろう。そして俺は鬱屈としたまま働き、会社が破産したら共に死ぬのだ。哀れなものではないか。
三人で酒を交わしているが、俺だけは二人と違う。何もできない俺は取り残されるだけ。酷く、寂しい席だ。
無能社員の俺、酒の席で孤独を感じ一人ネガる 白川津 中々 @taka1212384
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