戦う理由
その日の標的は、都市部から離れた工業地帯にいた。
「応援部隊は十分後に到着予定です」
通信越しに司令官の声が響く。
「了解しました」
工場の裏手に回り込むと、怪人の姿が見えた。まだ人型を保っているものの、両腕が異常に肥大化している。その腕で、コンテナを次々と投げ飛ばしていた。
「くそっ……なんで、なんでこんな力を手に入れたんだ!」
怒号が響く。どうやら、力を得たことで混乱しているようだ。
「落ち着いてください」
俺は静かに声をかけた。
「誰だ!?」
振り向いた怪人の目が、狂気に満ちている。これは……まずいか。
「お前か。お前が、この力を奪いに来たんだな!?」
「違います。その力はあなたのものではない。早く──」
「うるさい!」
巨大化した腕が襲いかかってくる。俺は咄嗟に跳び退いて距離を取る。
「クソガキが……調子に乗るな!」
次々と投げつけられるコンテナを避けながら、俺は考えた。このままでは、周囲の被害が大きくなる。早く押さえ込まなければ。
装備を展開する。金色の装甲が体を包み込む。
「なっ!?」
驚く怪人の隙を突いて、一気に距離を詰める。だが──。
「甘い!」
横なぎの一撃を受け、壁に叩きつけられた。装甲が衝撃を吸収してくれたが、それでも体が軋む。
「はは……はははは! すごい! この力、すごすぎる!」
怪人の笑い声が響く。その姿が、徐々に人型から逸脱していく。
このままでは……。
「つばきちゃん!」
「……!」
突然の声に、心臓が止まりそうになった。
振り向くと、フェンスの向こうに総司が立っていた。
「なんで──」
「心配になって……」
「危ないッ!」
叫ぶ間もなく、巨大な腕が総司のいる方向へと伸びる。
錆びついたフェンスは、まるで紙のように千切れた。
その瞬間、俺の体が動いていた。
装甲のブースターを全開にして、総司の元へ。抱きかかえるようにして、なんとか一撃を回避する。
「ご、ごめん……」
震える声で総司が謝る。怖かったのだろう。当たり前だ。
「いい、今はとにかく──」
「逃がさない!」
怒号と共に、再び腕が襲いかかる。今度は二つの腕が、まるでハサミのように。
「くっ!」
総司を守りながらの戦闘は、思った以上に難しい。動きが制限され、反撃の機会も限られる。
だが──。
(友達を、守らないと)
その一心で、装甲の出力を限界まで上げた。
「はぁぁぁぁぁ!」
渾身の一撃を、怪人の胸部に叩き込む。同時に、応援部隊のサイレンが聞こえてきた。
「チッ!」
怪人は一瞬の迷いの後、逃走を始めた。
追いかけようとした時、総司の声が聞こえた。
「つばきちゃん、大丈夫!?」
振り向くと、総司が心配そうに見つめていた。
「ああ、平気だ。それより、なんでここに?」
「だって……」
総司は言葉を濁す。
その時、司令官から通信が入った。
「応援部隊が、怪人の追跡を開始した。君は一般人の避難を担当してくれ」
「了解です」
通信を切ると、総司が申し訳なさそうに言った。
「ごめん。俺のせいで、逃がしちゃって」
「いや」
首を振る。
「お前を守れたから、それでいい」
「でも……」
「でもじゃない」
装甲を解除しながら、俺は言った。
「本当に、お前を守れたからそれでいいんだ」
「つばきちゃん……」
総司の目が、少し潤んでいるように見えた。
「さあ、帰ろう。今日はもう遅いし」
「う、うん!」
二人で総司の家に向かう道を歩きながら、俺は思った。
友達を守る──それは、俺の新しい戦う理由になるのかもしれない。
呪縛の鎧と好奇心の瞳 城崎 @kaito8
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