第2話「Mなヤスオ、ドSな荒野に挑む!」

ヤスオが次にたどり着いたのは、乾ききった荒野だった。果てしなく続く砂地には、どこを見渡しても生命の気配が感じられない。空は灰色に覆われ、太陽の光ですら地表に届くことをためらっているかのように弱々しい。そこに吹き付ける冷たい風が、容赦なくヤスオのヨレヨレスーツをなびかせる。


 「うわぁ……これまた厳しいなぁ……」とヤスオは目を細め、荒野の景色に圧倒されながらも、不思議と心の奥で「このくらいのほうが、やりがいあるかも……」と感じてしまう自分に気づいていた。


 村で少しだけ自信をつけたとはいえ、やはりこの世界は容赦なくヤスオにドSな試練を与えてくる。それでも、彼のM気質が逆に奮い立たせるのだ。「これくらいのハードルがないと、俺は本気になれないよな……」とつぶやきながら、ヤスオは乾いた地面を踏みしめた。


 進んでいくうちに、ヤスオは荒野の真ん中に、ぽつんと座り込んでいる男を見つけた。彼の前には枯れた植物の残骸があり、手には小さなシャベルを握りしめている。「あ、あの……どうかしましたか?」と、おずおずと声をかけるヤスオ。


 男は振り返り、疲れ切った目でヤスオを見た。「……見てわかるだろう。この荒野じゃ、何をしてもダメだ。いくら水を撒いても、風が吹けばすべて乾いてしまう。もう、諦めるしかないんだ。」


 その言葉に、ヤスオは思わず口をつぐんだ。確かに、この荒野で何かを育てるのは無謀に見える。それでも、ヤスオの心の中には「諦めてはいけない」という声が響いていた。


 「たしかに……今のままじゃ、厳しいかもしれません。でも……諦めるのは、最後の選択であるべきだと思うんです!」と、ヤスオは震える声で言った。男は彼を見て嘲笑するかのように口を開いた。「お前に何がわかる?この荒野がどれほど冷酷か。お前みたいなやつが、立ち入れる場所じゃないんだ。」


 「うっ……!」男の冷酷な言葉が、ヤスオの胸に突き刺さる。だけど、どこかでその痛みに快感を感じている自分がいる。「これこそ、俺の本領発揮ってことか……」と、心の中でふっと笑いがこぼれた。


 「そ、それでも!今を変えたいなら、動かなきゃ何も始まらないんです!」ヤスオは叫ぶように言い放った。「僕だってずっとダメな人生だったし、失敗ばかりでした。でも……だからこそ、変えたいんです!」


 男はその言葉に一瞬驚き、ヤスオをじっと見つめた。「……お前、本当に何をやっても失敗してきたんだな。なら、好きにすればいいさ。この荒野がお前をどう扱うか、見物だな。」


 その言葉に、ヤスオのM心は大いに刺激された。「ああ……この感じ、嫌いじゃない……!」と胸の中で感じながら、彼は再び時の石を掲げた。「よし……行ってきます!」石が光を放ち、彼の体を包み込む。周囲の景色が歪み、ヤスオは過去の荒野へと飛び込んでいった。



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 目を開けると、そこには今とは違う、かつての荒野の姿が広がっていた。かつてはこの場所にも小さな湖があり、緑が生い茂っていた。しかし、遠くで見える住民たちが、川の水を過剰に使い、森を伐採しているのが見えた。


 「これが原因だったのか……」ヤスオはその光景に眉をひそめた。住民たちは自分たちの生活を豊かにするために環境を酷使し、やがて荒野を生み出してしまったのだ。


 「ちょ、ちょっと待ってください!」ヤスオは住民たちのもとへ駆け寄り、大きく手を振って叫んだ。「このままじゃ、未来が大変なことになります!もっと自然を大切にしないと!」


 住民たちはヤスオを一斉に見つめ、不審そうな目を向ける。「なんだ、このヨレヨレの奴は……」と冷たく言い放つ。「俺たちの生活のために、何が悪い?未来のことなんて知るか。」


 その言葉に、ヤスオは胸を締め付けられるような気持ちになる。彼自身、ずっと自分のことだけで精いっぱいで、周りのことを考えられなかった。それでも今、彼は変わろうとしている。「……わかります、今を生きるのに必死になる気持ち。でも、今を大事にするのは未来を守ることでもあるんです!」と、彼は必死に言葉を続けた。


 「未来なんて、誰にもわからない。それでも、今ここでできることをしなければ、後悔するのは自分たちなんです!」ヤスオはその言葉に自分自身も鼓舞されるのを感じた。


 住民たちは一瞬黙り、彼の真剣な目を見つめた。「未来を守る……今を大事にするために……」と誰かが呟いた。


 「そうです!」ヤスオは頷いた。「だから、今からでも、皆さんで協力してこの荒野を守りましょう!未来を変えるのは、今の一歩からなんです!」


 住民たちは互いに顔を見合わせ、やがて一人が口を開いた。「……わかった。今のままじゃダメだって、心のどこかで感じてたのかもしれない。俺たちも、もう一度考えてみるよ。」


 ヤスオはその言葉に胸が熱くなるのを感じた。「よ、よかった……!」彼はほっと息をつき、再び時の石を握りしめた。「これで……現代の荒野も、少しは変わるかもしれない!」



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 光に包まれて現代に戻ったヤスオは、荒野の風景を見て目を見開いた。枯れ果てていた地面には、新たな緑が芽吹き始めている。小さな水たまりができ、そこに鳥たちが集まり水を飲んでいた。


 「おおっ……!」ヤスオはその変化に感動し、拳を握りしめた。「俺……本当に何かを変えられたんだ……!」


 先ほどの男がヤスオに近づき、驚いた顔で周囲を見回す。「まさか……こんなことが起こるなんて……」


 ヤスオは顔を赤くしてうつむきながら、「い、いやいや……俺なんて、ただの小市民で……しかも、ちょっとMなだけで……」と照れくさそうに答えた。しかし、男は静かに彼の肩に手を置いた。「だからこそ、お前の言葉が届いたのかもしれない。お前のようなやつが、未来を切り拓くなんて、考えもしなかった。けれど、あんたがやったんだよ。」


 ヤスオはその言葉に一瞬、胸がいっぱいになった。「俺が……未来を切り拓いた……?」と自分の口から漏れた言葉に、驚きを隠せない。それでも心のどこかで、自分がここに来て何かを成し遂げたという実感が少しずつ芽生え始めていた。


 「いや、本当に信じられないけど……やるしかなかったし、やってみた結果がこれなら……悪くないかもな。」とヤスオはふと笑顔を見せた。彼のその表情に、男も思わず笑みを浮かべる。


 「そうだな、やってみなきゃ何も変わらないってことか。ありがとう、ヤスオさん。お前がここに来てくれて、この荒野に未来の風を吹かせてくれたんだ。」


 男のその言葉に、ヤスオの心はさらに温かくなる。「俺でも……こんな荒野で何かを変えることができたんだ……」彼は胸の中で静かに決意を固めた。「よし、次の場所だ!」


 ドSな世界はまだまだ広がっている。彼の前に待ち受ける場所がどれほど厳しくても、彼のM気質がそれに負けることはない。むしろ、厳しさに立ち向かい、その冷たさに熱い一歩を刻むことこそ、ヤスオが自分らしく生きる道なのだ。


 「俺の旅はまだ始まったばかりだ……次もきっと厳しいだろうけど、それが俺の生きる意味だ!」と拳を握りしめ、ヤスオは砂塵の舞う荒野を背に歩き出した。その背中には、新たな自信と少しずつ強くなる意志が宿っている。


 彼の目指す先は、次なるドSな世界。そして、彼の心の中にはいつでも、荒野での言葉が響いていた。「甘さがなければ、厳しさに意味がない――だからこそ、俺は進み続けるんだ。」


 こうして、Mなヤスオの異世界再生計画はまた一歩、前進した。

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2024年10月1日 07:06 毎日 07:06

「異世界再生計画〜Mな小市民ヤスオ、ドSな世界で奮闘す」 ●なべちん● @tasi507

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