「異世界再生計画〜Mな小市民ヤスオ、ドSな世界で奮闘す」

●なべちん●

第1話「Mな小市民ヤスオ、ドSな世界で異世界再生計画!」

船橋市の片隅に、どこにでもいるような平凡で、少しMな性格の男がいた。その名も草野ヤスオ。彼は小市民の中の小市民であり、社会に押しつぶされるのが少し快感だったりするのが彼の特徴だ。毎朝ヨレヨレのスーツを身にまとい、すり減った革靴を履いて会社へ向かうのが彼の日課だ。


 「今日も厳しい一日が始まる……まあ、これくらいのほうが俺には合ってるかもな……」と呟きながら、満員電車に押し込まれ、肩をすぼめているのがヤスオの日常。誰からも注目されることなく、冷たい視線にさらされることさえも、彼にとっては妙な安心感があった。


 ある日の夜、ヤスオは仕事から疲れ切って帰宅し、ボロボロのソファに倒れ込んだ。何もかもが上手くいかない現実に溜息をつきながら、「こんな人生、もうどうでもいいや……」と目を閉じかけたそのとき、彼の手に何か冷たい感触が伝わった。


 「……なんだ?」ヤスオが恐る恐る目を開けると、手の中には奇妙に光る石が握られていた。まるで彼に何かを語りかけるかのように、淡く輝いている。「え、なにこれ……?」と首をかしげていると、突然部屋に響く声が聞こえてきた。


 「草野ヤスオよ、汝に使命を与える。このドSな異世界を再生するために、時の石を使うのだ!」


 「ちょっ……ドSな異世界って!?俺、普通の小市民なんだけど!?」ヤスオは慌てて叫ぶが、その声は空気にかき消される。「何を言っても無駄だ。お前には拒否権などない!」と響く声に、ヤスオの体は淡い光に包まれていく。


 「うぅ……これって、俺にとってむしろ好都合かも……!」と心の奥で少しだけ喜びを感じる自分に驚きつつ、ヤスオは光に飲み込まれ、異世界へと転送されていった。



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 目を開けると、ヤスオの目の前には、想像を絶するドSな世界が広がっていた。辺りは荒れ果て、冷たい風が吹き荒れ、地面はひび割れ、木々は枯れてねじ曲がっている。村々は荒廃し、住人たちは皆、ヤスオを見下すような冷たい目を向けてくる。


 「うわぁ……なんだこの世界……完全に俺を拒絶してるな……」と、ヤスオは寒気を感じたが、そのドSな雰囲気にむしろワクワクしてしまう自分を押さえきれない。「いや、こういう厳しさこそ、俺が活きる場かもしれない……」と、彼はスーツの袖をまくり、荒れた村へと足を踏み出した。


 村の広場に行くと、荒れた大地の上で村人たちが無表情で立っていた。ヤスオが近づくと、彼らは冷ややかな視線を一斉に向けてきた。「なんだ、このヨレヨレの奴は……」と呟く声が聞こえる。ヤスオの体は一瞬すくんだが、その冷たい目線に心の中で少し喜びを感じてしまう。


 「あ、あの……俺、村を再生するために来ました!」とヤスオはおずおずと声をかけるが、村人たちは鼻で笑う。「お前に何ができる?ここはお前のような弱者が立ち入れる場所ではない!」と冷酷に言い放つ。


 「うぅ……!」ヤスオはその言葉に一瞬ひるんだ。しかし、むしろそのドSな態度に逆に燃えてくる自分がいる。「ああ……この厳しさ……いいかもしれない……!」と、心の中で感じる何かに突き動かされ、再び口を開いた。


 「で、でも……やってみなきゃ、何も変わらないんじゃないですか!?」とヤスオは叫ぶ。彼の声は震えているが、どこか確かな力を持っていた。「僕だって、何度も挫けてきたし、失敗ばかりでした。でも……だからこそ、今やらなきゃって思うんです!」


 村人たちは一瞬黙り、彼をじっと見つめた。すると、村の長老が前に進み出て冷たく言った。「ならば、試してみるがいい。ただし、この村はお前を拒絶する。すべての困難に耐えられるか?」


 「はい!」ヤスオは即答した。むしろ、拒絶されることこそが彼にとってのやりがいだった。「どれだけ厳しくても……僕は負けません!それが俺の生き方なんですから……!」と、時の石を掲げた。


 石が光り、彼の体を包み込む。視界が揺らぎ、ヤスオは過去の村へと飛び込んでいった。



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 目を開けると、そこには今とは違う賑やかな村が広がっていた。かつては噴水も水を湛え、畑は作物であふれている。しかし、よく観察すると、村人たちの間に冷たい空気が漂っているのがわかった。お互いに厳しい目線を向け、競い合っていたのだ。


 「これが村の荒廃の原因か……」とヤスオは気づき、胸を痛めた。村人たちはお互いを突き放し、協力することを忘れていた。彼は村の中央に立ち、「ちょ、ちょっと待ってください!」と声を上げた。


 「お前は誰だ?」冷たく睨みつける村人たちに、ヤスオは一瞬怯む。しかし、そのドSな視線が逆に彼のM心を奮い立たせた。「ああ……この感じ、悪くない……!」


 「皆さん!お互いを突き放すのは、自分を追い詰めるだけです!厳しさがあっても、それを乗り越えるには支え合いが必要なんです!」ヤスオは自分の気持ちを精一杯伝えようと叫んだ。


 村人たちはヤスオを嘲笑するかのように見つめる。「支え合う?そんな甘い考えが通じるか……」と誰かが言った。


 しかし、ヤスオはその言葉に負けなかった。「甘いかもしれません!でも……甘さがなければ、この厳しい世界で生きる意味だって見失っちゃうんじゃないでしょうか!」彼の声は震えながらも真剣だった。


 村人たちは一瞬だけ息をのんだ。「……甘さがなければ、厳しさに意味がない……か。」と、一人の村人がつぶやく。


 ヤスオはその反応に胸を熱くし、「そうです!だからもう一度、協力して村を盛り上げましょう!」と叫んだ。


 村人たちは顔を見合わせ、やがて一人が頷いた。「……そうだな。今までのやり方がうまくいかないなら、変えるしかないか。」と、その村人の言葉に続いて他の村人たちもゆっくりとうなずいた。「たしかに、支え合うなんて甘い考えだと思っていたけど、それが必要なのかもしれないな……」


 ヤスオはその反応に、胸の奥が温かくなるのを感じた。「よ、よかった……!」彼はほっと息をつき、再び時の石を握りしめた。「これで……現代の村も、少しは変わるかもしれない!」


 石が再び光を放ち、ヤスオを包み込む。周囲の景色が歪み、彼は現代の村へと戻った。



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 目を開けると、ヤスオの目の前には、少しだけ変わり始めた村の姿が広がっていた。荒れ果てていた畑には、新しい作物が植えられている。かつて干上がっていた噴水からは、かすかに水が流れ始めていた。村人たちは互いに声をかけ合い、協力し合いながら作業をしている。


 「おおっ……!」ヤスオはその光景に感動し、拳を握りしめた。「俺……本当に何かを変えられたんだ……!」


 その時、先ほどの村の長老がヤスオに近づいてきた。冷たかった目つきは少しだけ柔らかくなっている。「……ヤスオさん、ありがとう。あなたの言葉が、この村を変えるきっかけになったよ。」


 「え、いやいや、俺なんて、ただの小市民で……しかも、ちょっとMなだけで……」とヤスオは照れくさそうに頭を掻いた。しかし、長老はしっかりと彼を見つめ、「だからこそ、あんたの言葉が刺さったんだろう」と微笑んだ。


 「あなたのように、厳しさに耐え、甘さを求める気持ちを持つ人が、再生を導くのかもしれない。私たちも、これからは支え合って生きていくよ。」


 ヤスオはその言葉に胸が熱くなるのを感じた。「俺、何かの役に立てたんだ……!」と、再び拳を握りしめる。彼の中に少しずつ、確かな自信が芽生え始めていた。


 「よし……これで一つ、再生に成功だ!」と、彼は自分に言い聞かせる。だが、彼の挑戦はまだ始まったばかりだ。厳しく、冷たいドSな世界はまだたくさん存在している。


 「次の場所に行かなきゃな……俺にしかできないことが、まだあるはずだ!」ヨレヨレのスーツを整え、ヤスオは次の目的地に向かって歩き出した。背中には、ドSな世界に挑む覚悟と、少しずつ強くなる決意が宿っていた。


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