第28話 知らないうちに新しい騎士団が出来てた

 鉱山の町で、ウロボロスの下部組織のボスと戦ったり、なぜか元暗殺者のメイドを雇うことになったりと、波乱尽くしの日々を過ごしたあの日から、気付けば半年が経過していた。


 そろそろデトラー領に戻りたいな……って思ってるんだけど、なぜか未だに王立騎士団の指導官として滞在させられている。


 ……なぜ?


「グレオ団長、俺一応デトラー家の後継者なんで、ずっとここにいるわけには行かないんですけど」


「ああ、その件なら問題はないぞ。君の父上から、『こっちは問題ない、最悪代官を育てればいいだけの話だからな! それよりも、王立騎士団の方が大事なお勤めだ、しっかり頼むぞ!』と言われているからな」


「あはははは……マジですか」


 父さんめ、俺を売りやがったな!!


「俺としても、君にいて貰えると非常に助かる。この半年で、騎士団の練度は大きく向上しているからな」


「…………」


 グレオさんの言う通り、王立騎士団は俺が来てから日に日に強くなっていると、貴族達の間でも噂になっていた。


 しかし、それは決して俺のお陰では無い。


 彼らの上達の秘訣は、今まさに目の前で繰り広げられている苛烈な訓練にあった。


「行くわよあんた達、正規の騎士団なんてぶちのめしてやりなさい!!」


「負けるなお前ら!! ついこの前までただのチンピラだった連中に負けるな!!」


「「うおぉぉぉぉ!!」」


 アイシア率いる世紀末ヒャッハーみたいな集団と、ルクス副団長率いる王立騎士団が、訓練場で激突する。


 訓練用の木剣を手に激しい打ち合いをする彼らがしているのは、もちろん訓練……ではなく、その前座だ。


 今日の訓練場の使用権を賭け、全力で集団戦を行っているのである。


「しかし、よく考えたものだな。エリム王女の専属騎士団を作り、正騎士団と競わせるとは」


「……俺が考えたんじゃなくて、勝手にそうなったんですけど」


「ははは、そうなるように仕向けておいてよく言う」


 嘘じゃないんだけどなぁ、と思いながら、俺は目の前で繰り広げられる激戦に目を向けた。


 事の発端は、鉱山の町から帰ってきた直後。エリムが国王陛下に頼んで、自分の専属騎士団を編成させたことだ。


 元々評判が悪かったエリムには、専属護衛と呼べる者がいない。女性騎士が少ないことで、王妃を含む女性王族の護衛の手配が少し大変だという事情もあり、騎士団の半数を女性で構成する事を条件に陛下はこれを許可した。


 そしてエリムは、専属騎士団の初代団長にアイシアを抜擢し、人材発掘を命じたんだが……何をトチ狂ったのか、アイシアが人材を求めて向かったのは、スラムを根城にグレーな商売を展開する荒くれ者どものところだったんだ。


 たった一人でそこを制圧したアイシアは、荒くれ者どもを纏めて騎士団員にしてしまい……“黒薔薇騎士団”なんて名前まで付けていた。


 普通なら、そんな連中認められるわけがない。

 しかし、何の因果か荒くれ者の頭領が女性だったことで、その構成員にも女性が多く……“半数を女性にする”という陛下の条件を満たしてしまったんだ。


 一体どんな目に遭ったのか、アイシア(となぜか俺)に心から服従していたのもあって、しばらく様子を見てみようとなったんだが……ここで生じた問題が、彼女達が訓練するための場所がないってこと。


 その件についてアイシアから相談を受けた俺は、適当に言ったんだ。

 じゃあ、王立騎士団の人達とルールを決めて、共同で使えば? と。


 その結果がこれだ。

 なんで戦って使用権決めてんだよ、意味が分からん。


「黒薔薇騎士団は元々裏社会の連中な分、王立騎士団にとっては仮想敵にちょうどいい。逆に黒薔薇の連中にとっても、腕っぷしだけではない緻密な連携や魔法技術など、正規の騎士団が取る戦術は参考になる部分が多いだろう。よく考えられている」


「ソウデスネ」


 もう、そういうことでいいや。


 ちなみに当然だが、この訓練場の奪い合いが始まった当初は、黒薔薇側が連戦連敗だった。


 しかし今となっては、その勝率は五分五分くらいになっている。


 いやほんと、何をどうしたらそこまで急成長出来るのか、秘訣を知りたいよ。

 それを聞くと、みんな口を揃えて俺の指導の賜物だっていうんだけどね。


 そんなわけあるかい。


「師匠ーー!! 勝ったわよーー!!」


 そんな風に考えていたら、アイシアの黒薔薇騎士団が勝ったらしい。


 アイシアの、と言っても、この戦闘にアイシアは参加してないんだけどね。そんなことしたらあまりにもバランスブレイカーだし。


 少しは指揮能力を身に付けろ、とか適当ぶっこいて下がらせたけど、最近それもだいぶ板について来たらしい。


「おう、よくやったな。で……今日も俺に指導して欲しいとか言うつもりか?」


「当然よ、そのためにみんな頑張ってるんだもの」


 ね? とアイシアが振り向くと、黒薔薇の副官……元々この人達を束ねていた女頭領のカレンが大きく頷いた。

 二十代半ばの若いお姉さんで、一応は騎士らしい服装をしているのに溢れ出るエロスが隠しきれていない。というか隠す気もなさそう。


 そういうところがなんかこう、アウトローっぽいよな。


「はい。アタシら全員、アンタの……いや、クロース様にご指導頂けて、大変ありがたく思ってます……!!」


 どこか必死さを感じるその言い方に、「大丈夫か?」と思わず問い掛けたくなる。


 けど、前に同じこと聞いて「大丈夫です!!」って返されちゃったから、いまいち言及も出来ないんだよね。


「じゃあえーっと……今日は魔法の訓練しようか。まだ苦手でしょ、君ら」


 まだ黒薔薇騎士団結成して半年だし、それより前は魔法なんて習う機会もなかったはず。


 そんな適当な考えで意見を口にしたら、カレンは愕然とした表情を浮かべ、後ろにいる団員達もがっくりと肩を落とした。


 ……え、何?君達そんなに魔法の訓練嫌いなの?


「……細かいとこはアイシアに任せるよ。それじゃあ俺、そろそろ行くよ」


「分かったわ。それじゃあまた後でね、師匠!」


 元気に手を振るアイシアに手を振り返し、訓練場を後にする。


 カレン達がこれから死地に赴くかのような決死の表情になってるのが気になるけど……まあ、気のせいだよね、うん。

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2025年1月9日 12:00

破滅フラグ回避のためにヒロイン達を鍛えたら、なぜかモブキャラの俺が史上最強の剣聖と勘違いされた件 ジャジャ丸 @jajamaru

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