私が齋藤さんを支持しない理由

@pip-erekiban

再選阻止!

 元西播磨県民局長の内部告発に端を発する文書問題で、兵庫県の齋藤元彦知事が県議会より全会一致で不信任を突きつけられ、知事は失職、出直し選挙を選択した。

 告発文書では七つの疑惑が告発されているが、本稿では特に、パワハラ疑惑について個人的見解を述べたいと思う。

 ちなみに本人は最後まで自身の行為をパワハラと認めなかったが、その定義や類型に照らしてみれば明らかにパワハラである。

 本稿ではパワハラが行われたことを前提事実と認め、話を進めていくこととするので、その旨あらかじめご了承願う。


  *  *  *


 兵庫県に限らず、日本国の有権者のほとんどが被雇用者、或いは過去にそうだったというのはおそらく動かぬ事実だろう。統計を取ったわけではないが、「雇用する側」よりも「される側」の方が圧倒的に多いというのは、違和感なく受け入れていただける事実だと思う。

 その意味で有権者とは、パワハラ被害を過去に受けたことがある、現に受けている、これから受ける可能性がある人々の集合体と言っても過言ではないのである。


 不信任案可決後、齋藤知事は相次いでNHKや民法各局のニュース番組に出演し、実績の強調に余念がなかったが、この動きは支持拡大につながらず、かえって知事の無反省を難じる意見ばかりが聞かれた。


 いくら手柄を吹聴しても、そんなものはパワハラによって被雇用者を酷使し、不法の手段によって得られた結果なのであるから、むしろ顕在的にせよ潜在的にせよ、パワハラ被害者の集合体である有権者に憎悪されるのは当たり前の結果だったといえる。

(そういえば齋藤氏は高校生からの励ましの手紙を受け取って出直し選挙を決意したそうである。支持を表明した者がパワハラと縁遠い層だったというのも示唆的だ。)


 折しも自民党で行われた総裁選では、石破茂氏が悲願を遂げた一方、河野太郎氏の凋落ぶりが話題になった。曰く党員票がわずか二パーセントだったというのである。

 新型コロナワクチン接種やマイナンバーカード事業で仕事の速さを賞賛された河野氏だったが、拙速を危ぶむ声も多かった。事業の裏で、過重労働を強いられた官僚がいたであろうことは想像に難くないし、パワハラ六類型でいうところの「過大要求」があったことはどうやら事実らしい。


 昨今は東大生が官僚を目指さなくなり、官僚のなり手不足が深刻化しているという。国家予算を投入して運営しているはずの「官僚製造工場」から官僚のなり手がいなくなってきているのだから、由々しき事態だ。

 これに関して、「目指さない奴が悪い」とは一概には言えまい。「官邸主導」の掛け声のもと、政治家の実績づくりのために意に沿わない過重労働をさせられるというのでは、二の足を踏んで当たり前だ。

 

 室町幕府は、朝廷や幕府の儀式を執行しなければならない性質から、主たる構成員だった守護に莫大な出費がのしかかった。出費に耐えられなくなった守護は在京義務を放棄し、最後まで京都に残った細川京兆家も、幕府終期は碌に儀式を執行しなくなって消滅に至っている。

 江戸幕府にしても、参勤や各種式典など、体制の維持存続にかかる様々なコストを幕臣ですら嫌うようになって、一気に瓦解した。

 そして日本国では、国家の統治機構を担う官僚が過重労働にさらされ、本来官僚を目指すべき層が労働コストを嫌い、これを目指さなくなってきているのである。


 もしも日本国が滅ぶときが来るというのであれば、それは外国勢力による侵略ではない。自然災害などの天変地異によって引き起こされるのでもない。

 政治家や官僚といった、国家の主たる構成員自身が、国家運営によって生じる労働コストを嫌い、その存続を望まなくなったときに、日本国は滅ぶのである。

 そして政治家によるパワハラは、官僚という国家の主たる構成員が、国家の存続を望まなくなる要因となりうる。


 齋藤知事に対する数少ない擁護意見の中に、

「犯罪を犯したわけではない」

 というものがある。

 確かにパワハラ行為自体に罰則規定はなく、ただちに犯罪とはいえないが、政治家によるパワハラが統治機構に与えるダメージは、生なかの犯罪の比ではない。自分にしんどい思いをさせている主体が続いてほしいとは誰も思うまい。

 

 思いがけず国家云々の話まで広がってしまったが、そんなに小難しい話ではない。要は「パワハラを容認するかしないか」という話だ。

 私の職場にはパワハラの咎で処分を受けた人が多くいる。なかには処分以降なかなか浮上のきっかけを掴めていない人もいる。

 もし齋藤氏がたった一回の選挙で再選されるというなら、「社会的地位が高ければパワハラをしても許される」という誤った意味で捉えられかねず、それは所謂「パワハラ防止法」の第一条に定められた法の目的を換骨奪胎するだろう。

 

 したがって私は一被雇用者として、ここに齋藤元彦氏不支持を表面し、強く主張する。

 

 ご静聴ありがとうございました。


               (おわり)

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