第9話 あの時の裸が離れない

 風呂から上がり、星空を見上げていた。

相変わらず綺麗だ。ここは空気も澄んでいてとても落ち着く。


「ね、こっち来て神経衰弱しない?」


 そう言いだしたのは優香さんだった。彼女は細部までしっかりと想像したものを作り出せるクリエイトというスキルを取得し、トランプを作っていたようだった。


「それならベルさんも誘いましょうか」

「そうね。みんなですると楽しいものね」


 そう言って部屋から出て、宿のフロントへ向かった。おっ、いるいる。今は時間ありそうだし誘っても大丈夫かな。


「ベルさん、一緒に神経衰弱しませんか?」

「シンケースイジャクですか……?」

「そうそう。ルールは簡単ですよ」


 どうやら仕事は終えていたらしく、ベルさんは快く受け入れてくれた。


・ ・ ・


「あー!もう!なんでそんなにも取れるのよ!」


 地面に散らばったトランプから目を離し、優香さんは息をついた。


「実は記憶力には自信があるんですよ」

「シンケースイジャク……難しいけど楽しいですね!私も京介さんを見習わないと!」

「楽しんでもらってなによりだよ」


 まぁ俺がこんなにも同じカードを揃えられるのはスキルのお陰なんだけどね…。

 一度見たものは忘れようとしない限り記憶に残るようになっているらしい。

ただし、他の人がめくったカードで揃うものが無いときは勘で当てるしかないんだよな。

スキルで透かすのは流石にしたくないし…。

 左端にあるカードをくるりと裏返した。

描かれた絵柄は一枚目にめくったカードと揃わず、俺のターンは終了した。


「次は優香さんの番ですよ」

「そうね…。京介くんがそこまでするとは思ってなかった。私も本気を出させてもらうわ」


 そう言って優香さんは一枚目のカードをめくり、迷うことなく続けて二枚目のカードをめくろうとした。

 しかし、そこは一度ベルさんがめくったもので、それでは絵柄は揃わない。


「本当にそれでいいんですか?」

「ええ、問題ないわ」


 くるりと裏返したカードの絵柄は、何故か一枚目にめくったものと同じだった。

 おかしい。俺の記憶だとそこには別の絵柄のカードがあったはずなのに……!


「優香さん…もしかして…」

「なによ?」


 得意げな表情で次のカードをめくろうとする彼女をじっと見つめた。


「今、一枚目にめくったカードと同じ絵柄のものを作りましたよね?」

「……知らないわよ」


 そっぽを向き、下手くそな口笛を吹く。

やっぱりそうだ。俺の記憶に間違いはない。


「そこは一度ベルさんがめくったカード、クイーンの柄のものがあったはずです」

「たしかに!私もそう思います!」

「…なによ!いいじゃない!ちょっとぐらい良いところ見せたいもの!そういう年頃だもん!」


 開き直った優香さんの胸が視界の端でたゆんと揺れる。よく見れば、シャツは胸元が少しオープンになっている。


「優香さん、胸が…」

「どこ見てるのよ!」


 その言葉と同時にビンタをくらい、何かを思い出した。あぁ、ベルさんの裸を見たときと同じ感覚だ…。

 やはりまだ、あの時の裸が脳裏を離れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界で煩悩は強い件について。 TMK. @TMK_yoeee

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ