第59話

泣きながらそう訴える神華に、五つ神である紅龍達はどうしたらいいのかわからなかった


ただでさえ、神華の過去と、衝撃の事実と、自分たちがどれだけ神華を追い詰めていたのかをつい先ほど本人から聞かされたばかりで、思い知らされたばかりで


理解が、追いつかないのだ


あの化け物、魔物を創ったのが神華だから、世界平和のために人間のためにと神華を五つ神で封印しようとあの場所に閉じ込めたのだ


でも、魔物たちを創ったのは神華ではなく、自分たちの愛する人間たちだった


そして、神華がその事実を知っていても口に出せなかったのは、五つ神である自分たちが人間を好きなことを神華は知っていたから


自分たちの神華に対する信頼が、追い詰められていた彼女を更に追い詰めていたのだ


神華が多少見栄っ張りなことぐらい、昔から知っていたのに


雷龍の膝がカクリと崩れ落ち、そのままその場にへたり込む


はく、と雷龍の唇が動くが、声にならないのか、言葉にならないのか


誰も何も発することはなく、ただ沈黙のみがこの場を支配する


いつまでもこの沈黙が続くかとも思えたが、それを破る者がいた




「………神華…


…申し訳、なかった


私達も間違えていたのだ


貴女が強いから、何でもできてしまうからと私達は貴女に甘えていた


それが、私達にとって当たり前だったから


でも、それが神華の重荷になっていたのなら…」




翠龍はそこまで言って唇を噛む


その顔には、後悔と自責の念がありありと見て取れた


五つ神全員が、同じような顔をしている


神華は涙をぬぐい、深呼吸する




「…ボクはね、別にみんなにそんな顔して欲しくてこの話をしたわけじゃないんだよ?


過去のことはもう変えられないし、どうにも出来ない


…でも、これからは変えられるよね?


“神様”っていう重荷を、信哉君にまで背負わせたくないんだよ


これからは、ただ1人の人間として接して欲しいんだ」




いったん言葉を止めて、また1つ大きく深呼吸する


そして、今度は紅龍だけを見据えて神華は言葉を紡ぐ




「……特に紅龍


君は、君だけは何があっても信哉君を独りにしないであげて…」




神華のその言葉に紅龍ははっとした顔をする


それに対して神華は小さく微笑む


彼の淡い恋心を知っているのは、まだ神華だけだから少しだけアシストするのもいいだろう


神華は言いたいことを全て言い終えたので、両手を前に出す




「…さぁ、ボクがこの手を打ったらみんなが起きるよ


そして、この身体は元の持ち主の信哉君に戻る


だから、みんなとはこれで最後だ


これから、みんなでもっといい世界にしていってね


信哉君のこと、みんな頼んだよ


ばいばい」




神華は言うだけ言って、誰の返事を待たずに手を叩いた


神華の言葉通り世界が動き出す


母の子守歌の効果が切れたのだ


神華の体がふらつき、紅龍が慌てて抱き留める

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

the Last Heart *Happy ending* 葉月 @hazuki_0123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ