第58話
端的に言えば、神華は魔物にも干渉することができなかった
魔物にも、うっすらと一応自我らしきものがあり、魔物の性質そのものを書き換えることなど、出来るはずもなかった
その事実だけでも打ちのめされていたが、更に神華を絶望に突き落としたものがあった
たまたま、その魔物を選んでしまったのが悪かったのかもしれないが、その魔物は神華が新たに人間に与えた魔力によって生まれてきたものだった
神華は人間に魔力を与えた時、その人間に扱いきれるだけの魔力量を与えていた
だから、人によっては極端に魔力の少ない者や、多数の属性を操れたり、多くの魔力を持った者がいた
そう、人間の中の格差を神華が意図せず目に見える形で広げてしまったのだ
その格差に対する恨み辛み、果てにはその原因となった神華への怨嗟の念がその魔物の中にはたっぷり詰まっていた
神華はこの世界で1万と2000年ちょっとを生きているが、ここまでの強い感情をぶつけられるのは初めてのことで、どうしたらいいのか解らなかった
だが、なんにせよ自分があの魔物や人間の中の格差を作ってしまったのは事実で、どうにかしなければいけないのだ
どうにかして、人間たちの不平不満を取り除き、雷龍たちの愛する人間に戻さねばならない
人間の心から悪意を取り除かねばならない
それができる可能性は、自分にしかないのだから
方法を模索して、人間たちの格差をなくし、昔のような平穏で平和な世界にしなければならない
―――不完全な人間を、完璧にしなければならない…
ボクが、それを実現しなければならない―――
そう神華が決意して5、600年くらいたった頃
ボクは運命の日を迎えた
そう、ボクが雷龍たちにあの無空間に閉じ込められた日だ
~神華side 過去 end~
「……あれからボクは人間と魔物をどうにかしようといろいろ必死にしてきたんだけれども、結果は見ての通り、ボクは何もできなかった
人間から悪意を取り除くことも、魔物を消すことも、何も…
ボクは、創ることは出来ても、それを改変したりは出来なかったんだ
……でも、今思えばそれも仕方のないことだった
だって、この世界の神である前に、ボクも醜い心を持った不完全な人間なんだもの」
そう言い終えると、神華は静かに泣いていた
この涙は、己が何もできなかった自責の念からのものなのか、それとも信哉君がボクを思い、泣いてくれているのか、わからなかった
あぁ、ボクの意識を保っていられる時間も、そう長くないのかもしれない
でも、その前に五つ神である彼らに言わなければならないことがある
特に、紅龍に…
「…ごめんね、こんなことになるなら最初からみんなに相談しとけばよかったんだよね
でも、皆に嫌われたくなくて、要らないって思われたくなくて、必要とされたくて、完璧なふりをしていたの
見栄を張っていたんだ…
ボクがこの世界を、皆を創ったのは確かに事実ではあるけれど
でもボクが出来るのはそれだけで、他のことは何にも出来ないただのちっぽけな人間なの
だからもう、ボクたちに期待しないで
“神様”っていう重荷から解放して欲しい…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます