第57話

ボクは思い悩んだ


雷龍にどうにかして欲しいと言われて、どうにか出来ると思い安請負してしまった


魔物への根本的な排除方法がもうないのに


でも、どうして魔物ができてしまうのか、人間が大好きな雷龍に告げてしまうのはどうにも気が引ける


根本的な解決ができない


…ならば、最善ではなく次善策を行うべきではないか


人間に干渉できないのであれば、魔物には干渉できるのではないか?


それならば…


神華は歩く、魔物を探して


魔物を探し出し、いつものように消滅させるのではなく、拘束して魔物の性質そのものを変えてしまえれば…


魔物自体が生まれることは阻止できないが、その魔物が人間を襲わなくなってしまえば、雷龍にまだ顔向けできるかもしれない…


神華のはやる気持ちと同じく歩を進める足も速くなる


いつしか駆け足になっていたが、ついに魔物を見つけた


走っていた神華が見つけたくらいだから、もちろん向こうの魔物も神華に気付いている


この時点で奇襲など普通なら無理だが、神華には言葉がある




「彼のものを束縛せよ!」




神華に向かって走ってきていた魔物が、その瞬間ビタンと地面に縫い付けられる


目には見えない不可視な力で押さえつけられた魔物が、その拘束から抜け出そうともがくが、それはついぞ叶わない


地面に縫い付けられた魔物に近づき、手の触れられる距離まで来ると、神華は大きく深呼吸をする


そして、ずぶりとその魔物の頭の中に神華の白い手が差し込まれた


もとからうるさい魔物が、より一層うるさい鳴き声を上げる


が、神華が黙れと一言言うだけで、その魔物の鳴き声が消える


魔物をより深く知るために、理解するために触りたくもない魔物の脳に直接触れているのだ


魔物の鳴き声に集中を乱されたくなかった


そのまま嫌な音を立てながら魔物の脳内をまさぐり、少しずつ魔物を理解していく神華


総てを理解した神華は素早く魔物の脳から手を抜く




「………消えてしまえ…」




神華のその一言で、魔物は黒い靄となり消えてゆく


魔物は消える際、いつも以上に怨念深い声を神華の心に突き立てた


神華は1つ大きなため息を吐いた


が、その息が震える


ぽろぽろとこぼれる涙が、心を整えるために吐いたため息を乱した


心の制御が利かぬまま、神華は大粒の涙を流す




「ぅあ…………っ、く…ぅ………ふ、ぅぅぅう…」




涙と一緒に声にならない声も零れ落ちる


止めたくても止められない涙に神華は己の両腕で自分を抱く


欲を言えば、誰かに慰めてほしかった


でも、そんなことできる立場ではないのだと、神華はただ泣きながら耐えるしかなかった

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