第19話

「っ、げほっげほっ」



漸く離れた唇。一気に酸素を吸い込もうと必死に呼吸をするが、咳き込んでしまう。

ボロボロと涙が溢れたとき。


大翔が微かに笑った。



「そんなに苦しかった? はは、顔ぐしゃぐしゃ」


「〜っ」



苦しんでいる私を見て、笑っている大翔を思わず睨んでしまう。

反抗することはよくないと分かっているけれど、どうしても我慢出来なかった。

これ以上醜態を晒したくなくて、必死に涙を拭う。



「ははは、何その不満そうな顔。気に入らないんだけど」


「……」



別に気に入ってもらえなくて構わない、そう思い顔を背ける。

床を見るとせっかく買ったスイーツの入った袋が落ちていた。



「俺の許可無く1人で買ったんだ、それ」


「え、な、何をして…っ!」


「ほんと、人を苛立たせてくれるね」



私が手を伸ばすより先に袋を持ち上げた大翔は、そのままリビングへと向かってしまう。

何をするつもりなのか分からずに慌てて追いかけると。


ゴミ箱へとそれを捨てていた。



「ーーねぇ、優香」



呆然としていると、大翔が振り返る。


こてんと首を傾けた大翔の口端が上がった。



「ここから出られないように、閉じ込めちゃっていい?」


「い、嫌っ」



冗談で言っているわけではないと分かっているから、直ぐに否定してしまったが後悔した。



「へぇ、嫌なんだ?」


「……っ」


「ま、安心しなよ。今はしないよ。まだ、準備もそろっていないし」



とても意味深な言葉に眉根を寄せる。


ただでさえ自由なんてないのに、これ以上ここに閉じ込められたら……想像するのも怖くて首を横に振る。


それに、大学を卒業するまでは大丈夫な筈で。

今すぐになんてそんなの、約束と違う。



「大丈夫だよ。まだ、ね」



私は全然笑えないのに、大翔が微笑んでいるのが異様に思えて。


青ざめることしか出来なかった。

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