第18話

コンビニで私の分と大翔の分のデザートを買う。大翔は甘いのはあまり好きじゃないから、抹茶ならいいかな。


「……、」



コンビニの外に出て、大翔が迎えに大学に行ってしまうだろうから、メールで【先に帰る】とだけ送る。

恐ろしい程の通知が来てる……。何でこんなに送ってくるんだろう。


ため息をつき、なるべく早足で大翔と住んでるマンションまで帰る。


玄関を開けようと鍵を取り出したとき。

何故か中から扉が開いた。

驚いて目を瞠る。



「ー………1人で帰って楽しかったか?」


「っ!? な、なんで……」



にこり。大翔が瞳だけ笑わず、笑みを浮かべている。


まだ講義中な筈。それにさっき1人で帰るって贈ったばかりなのに。

なのに、何で大翔がいるの…?


「はは、何その顔。驚いた?」


腕を組んで壁に寄りかかる大翔が嘲笑を浮かべる。

無意識に後ずさりしてしまう。


その瞬間、大翔が目を細めた。

冷たい表情をした大翔にビクッと身体を震わせる。



「俺に怒って欲しくてわざとやってんの?」


「ち、ちがっーー」


「違わないだろ。とりあえず家に入って」


「……っ」



大翔がチラッと左右を見て、そう促してきた。

このマンションに住んでるのは私たちだけじゃない。確かに他の人に見られたら何を言われるか分からない。


だけど、家に入ったら大翔になにされるのか、予想もつかない。

首を横に振るとため息が聞こえてきた。



「優香」


「っ!!」



その低い声にあの時のことを思い出してしまった。

聞こえるはずないのに、皆からの嘲笑う声が蘇る。

涙がこぼれていく。



ただ震えていることしか出来ずにいると。



「っ、ひっ!?」


腕を強く引っ張られて玄関の中へと引きずり込まれてしまった。

ーーガチャン

鍵の閉まる音に絶望を感じた。



「優香って俺を傷つける天才だよね」


「や、やだ…っ」


「何度も裏切って痛い目にあってるのに、それでも懲りずに俺を傷つけるんだもの。ほんと、」


「く、苦しっ、や、大翔っ」



抱き込まれた腕の中、必死に逃れようとするけれど強く抱きしめられて苦しさに顔を歪める。

そのまま顔を上に上げさせられ、唇を塞がれた。



「んーっ、ん!」



苦しい中、更に呼吸を奪うかのようなキスに意識が朦朧としてくる。

鼻で呼吸すればいいと分かっているけれど、パニック状態ではそんな簡単なことが出来ない。


もうダメだ、と思った瞬間。

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