終章

第13話

さらに月日は流れて、江戸時代もおわりを迎えようとしていた。海外の文化が日本に踏み出してきた時代、明治時代が来た。人々は洋服を着るようになった。人力車が走るようになった。路面電車が走るようになった。

 春は、とっくの昔に刀を持たなくなっていた。廃刀令が出され、国のえらい人に言われる前に、この身から離したという。

 しかし、捨てたわけじゃない。ちゃんと、部屋に飾ってある。たまに素振りをしている。

 今、春たちはそれぞれ別居して生活している。時代が変わり、補強してもしても屋根に穴が空くほど廃れた元実家は、とても住めそうになかった。さらに、年老いた両親は、仕事の過労で病気になってしまった。今はお互い六十ほどになり、町の中で二人、ひっそりと暮らしている。

 二十歳になった夏は、バイトから正社員になった。今、仕込みをしていたところだった。

「ふう」

 仕込みをおえ、額の汗を拭った。

「あ、路面電車だ!」

 目の前を通りすぎる路面電車に興奮した。

「転職して路面電車の運転手になろっかなあ?」

「それは困りますよ先輩!」

 肩を叩くのは、雪。十五歳になっていた。

「夏姉がいなくなったら、ひらの雪を誰が教えるの?」

「あたしよりハンサムな人が教えてくれるわよ〜」

 ニヤニヤしながら言った。

「夏お姉ちゃんは女の子でしょー?」

 二人は笑った。

 同じ頃、港では米俵が船に積まれていた。

「春さん! これ頼むよ」

 と、荷車に乗せた米俵を渡す作業員。

「はーい」

 二十五歳になった春は、倉庫作業員になっていた。力仕事だし、黙々とやれるからだ。

(料理とか和菓子とか、女の子らしいのをやれと言われたけど、どうも性に合わないしな)

「おい! なんか来るぞ!」

 船にいる船長が、声を上げた。春も船長が示す海の向こうを見てみた。

 確かに、なにか巨大なものがこちらにやってきている気がする。一体なんだろうか。よーく目を凝らした。

「休憩ターイム!」

 夏と雪が、休憩がてら港へとやってきた。

「でさ、雪ちゃん。こうき君とはどうなの? いくとこまでいったの?」

 ニヤリとした。

「もうエッチ! そんなことまだしないよ」

 照れて答えた。

「第一、こうちゃんはシャイだからそんなこと積極的に……。なにあれ!?」

 いきなり声を上げるためびっくりする夏。

「なにあれ!?」

 夏も驚いた。

 その巨大な物体は、どんどん近づいてきた。港へ向かって、どんどんどんどん近づいてくる。

「もしかして……」

 春は、確信した。

 巨大な物体が港にやってきた。それは、奈良の大仏が足にプロペラを付けて、海から上がり、陸に上がるとプロペラを止めて、巨大な車輪を出した。そして、拝んでいた手を大きく広げると、胸の部分が開いた。

「ひゃっほーい!」

 そこからパラシュートを付けて降りてくる女の子。

「空!」

「空ちゃん!」

 春と夏、雪が声を上げた。

「はるるちゃーん! なっちゃーん! ゆっきー!」

 パラシュートで降りてきながら、手を振る空。

「いいぞ! そのまま降りてこい! 受け止めてやる!」

 春、夏、雪は両手を広げて、空を受け止めようとした。

「大丈夫。これゆっくり降りてく……」

 カモメにパラシュートを突かれた。

「あら? あ〜れ〜!!」

 割れて、そのまま落ちていった。

「空ーっ!!」

 三人は走って追いかけた。

「きゃあああ!!」

「わあああ!!」

 叫びながら落ちて、追いかけて、なんとか砂浜で受け止めることができた。

「うう……」

 起き上がる彼女たち。

「久しぶり!」

 にこやかにあいさつする空。

「まったくお前ってやつは!」

 と、春。

「すごいの作って、日本にまた来てくれたわね!」

 と、夏。

「ほんと、空さんには驚かされるよ!」

 と、雪。

「あはは!」

 彼女たちは顔を合わせて笑った。巨大大仏を背に、笑った。

 新しいお家で、空を見上げほほ笑む秋と太陽。太陽が、秋の肩を組んでいる。

 明治時代になっても変わらない神社では、十七歳のこうきが空を見つめ、ほほ笑んでいた。

 その後、空は巨大大仏に春、夏、雪、こうき、秋、太陽を乗せて、海を渡り、日本を一周した。空は日本をよく知らなかった。なので、北海道ではじゃがバターを、宮城でずんだ餅を、長野では信州そば、愛知ではみそかつ、大阪ではたこ焼き、広島では広島焼き、沖縄では、サーターアンダギーをごちそうした。

「さあ、日本を堪能したあとは、世界を堪能するわよ!」

 空が拳を上げ言い放った。

「ええ!? で、でも仕事があるし……」

 ためらう春に。

「普段乗れないからくり人形に乗って、世界を旅できるんだよ? 仕事と世界旅行、どっちなのお姉ちゃん?」

 と、夏。

「断然世界旅行ですよ!」

「雪も!」

 こうきと雪が世界旅行に賛成。

「私も。ね? あなた」

 秋がひじで突いてくると

「そうだな。おかげで若返ったし」

 同じく賛成する太陽。

 みんなが世界旅行に行きたがっているのを見て春は。

「空。まずはどこに行くんだ?」

「よーし! まずはアメリカはニューヨークよ!」

「ほな、ニューヨークまで飛ばしますよ」

 操縦席にいるお目付け役が、飛行モードボタンを押した。

 すると、巨大大仏の背中から飛行機の羽が生え、足からエンジンが噴出された。そして、空を飛んだ。

「冒険の始まりだ!」

 澄んだ青空の下、全員でその言葉を上げて、ニューヨークへと旅立っていった。

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からくり工場のひみつ みまちよしお小説課 @shezo

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