パレットが足りない(木パレはある)

白川津 中々

◾️

「パレットが足りないでーす」




月曜午後イチのクソかったるい時間に飛んできた小林くんの報告はやはりクソかったるかった。




「なんで足りないの。週末余りまくってたじゃん」


「朝イチでみんな勝手に持ってっちゃいましたね」


「専有は禁止にしたじゃん」


「作業者がそんな言いつけ守るわけないじゃないですか。自分の仕事さっさと終わらせたいんですよ」


「……誰がどれだけ持っていっているか分かるか小林くん」


「完全把握はしていませんが、だいたいは」


「ならば行くぞ」


「どこへですか?」


「知れた事。不法専有者からパレットを取り立てる……パレット狩りだ!」




俺は小林くんの案内のもと、速やかに嫌疑のある作業者の現場に赴いた。




「あ、新東さん。どうしました」


「パレットを出してください」


「え?」


「パレットを出してください」


「何のことですかね。全然分からないんですが」


「パレットを出してください」


「いやいや。パレットなんてないですよ。そんな無法するわけないじゃないですか」


「新東さん。プレス機の裏から二つ見つけました」


「でかした小林くん」


「あ、てめぇ小早。ふざけんじゃねーぞ」


「勝俣さん。パレットは必要な分だけ持っていってください」


「あのねぇ新東さん。あんた現場出てないから分かんないと思いますけどねぇ。そんなんじゃ仕事回んないですよ」


「勝俣さんが必要以上に持っていくと他が回らなくなるんですよ。欲しいなら木パレを使ってください。火に焚べるくらいあるんだから」


「ぐぬぬ」




次。




「あれ、新東くんどうした」


「パレットを出してください」


「え、なんて?」


「パレットを出してください」


「なんて?」


「パレットを出してください」


「ごめん、よく聞こえない」


「新東さん、納品置き場に五つありました」


「あ、小林お前この野郎!」


「五つ。欲張りですね浅井さん。必要なら木パレを使ってください」


「あのね新東さん。俺はこの仕事一番長いわけよ。少しくらい融通効かせてくれてもいいだろう」


「あんたそう言って前に仕出し弁当かっぱらってったでしょ。納期や休みの話は聞きますが有形物に関する案件は駄目ですよ」


「なんだい。前の生管はよかったのに」


「色々状況が変わってるんです。前の生産管理の人だって今やってたら同じ事してますよ。ともかく、今後は専有やめてください。木パレなら好きに使っていいんで」


「はいはい。分かった分かった。ちくしょうめ。あーあやる気なくなっちゃったなー!」


「……普段からやる気なんてないだろ」


「なんか言ったかい?」


「いいえ。それじゃあ、よろしくお願いしますね」




こうして回収する事二時間半。パレット置き場には実に三十もの樹脂、プラ性のパレットが置かれ、ようやく本来あるべき状態へと回帰。遅れた通常業務巻き返しのため本日は残業確定。割いた工数の割に合うかどうかは考えないようにしたい。




「すみません新東さん。A工業さんからパレット返せって連絡がありました」


「……今日の配送時に木パレ送っといて」


「承知しました」




すみませんA工業さん

でも仕方ないじゃん。許してよ。木パレあげるから。





工場現場でいつもなくなるパレット達。

どうして木パレは腐るほどあるのに使われないのか(本当は知ってるだってすぐ割れるんだもん)。

あぁ、パレットパレット、僕らの大事な荷役台。

あぁ、パレットパレット、いつの間にか他社のが混じって置いてある。

あぁ、パレットパレット、社名削って使っちゃえ。

あぁ、パレットパレット、僕らの大事な荷役台……

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パレットが足りない(木パレはある) 白川津 中々 @taka1212384

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