第5話

その後、クリストファーの生家、ランドルフ伯爵家から正式な婚約の申し込みがあり私は公爵家からの縁を切られることはなかった。

あまりにも対応が早いので仕組まれたことだと気が付き公爵はかなり怒っていた。


お怒りはごもっともだが、このために何年も準備してきたのだ。

エレノア・カーマイン公爵令嬢、一世一代のお芝居はこうして終わりを告げた。



その三ヶ月後にメルシャンへの謝罪のお茶会を開いた。

出席者はメルシャンとアレックス、エレノア、クリストファーだ。


私は頭を下げて謝罪をした。


「やはりそうでしたか。エレノア様は私が男子に絡まれているのを何度も助けてくださいました」


そう言えば、婚約者がいながらメルシャンに絡んでいた男子がいたのでメルシャンを𠮟るフリをして蹴散らしたことがあったなと思う。

「その方には婚約者がいらっしゃるのよ、馴れ馴れしくしてはいけないわ」と凄い剣幕で迫った。男子は私の威圧にビビって逃げて行った。



「それから王妃教育についてお叱りを受けました」


メルシャンに王妃になるための勉強について自慢するフリをして情報を与えた。


「だから父に少し無理を言って、同じ教師に習うことにしました。アレックスの協力もありましたが、エレノア様のあの話で意識が変わったのは事実です」


今では遠い記憶だ。


「お芝居とは言え、酷いことをしました。申し訳ございません。恨まれても仕方ないと思っています」


「いえ、私も何も知らずに……恨むなんてとんでもないです」



「メルシャン、エレノア嬢に言いたいことがあるのだよね」


「ええ」


メルシャンはグッと目を閉じて意を決してから言う。


「これからはお友達として仲良くなりたいです」



「……私のような者で良いのですか?」


「はい、お願いします」


メルシャンはヒロインのような笑顔で両手を出した。

その笑顔はずるいなと思う。私はメルシャンの手を掴んで返事をした。



「よろしくお願いします」



和解が成立し、次期王妃と友達になることになった。

メルシャンもこれで悪友だ。これはちょっと計算外だった。


その後も王家との繋がりは裏事情で切れることはなく、悪女と名高いエレノアの名前は社交界でも凛と咲き誇った。

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今日もゆるい嫌がらせで悪役令嬢を頑張ります。 蟹井のん @kanii_non

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