第十一話 現実


 ――記憶に刻まれた夏。


 記憶の底に、永遠と残り続けるであろう夏。



「おにいちゃん!はやくはやくー!」

「せつな!ちょっとまって……!」


 せつなは相変わらず走るのが速い。


 僕はいつも負けてばかりだ。


「お店まできょうそう!だからね!」


 必死になって追うが、まだまだ届かない。


「せ、せつな…!ちゃんと前向いて…走らなきゃ……!」

「大丈夫だよーだ!おにいちゃんはもっとはやく走ってー!」


 これでも全力だ。


 僕の出せる限りの全速力だ。


 でも、追いつけない。



「せつな…!曲がり角は…しっかり止まってから……!」

「大丈夫だってばー!」


 

 その瞬間――。


 

 目の前を一台の自動車が通り過ぎる。

 


 消え去る彼女の影。


 鈍い衝撃音。




 (え……?)



 

 鳴り響くクラクション。


 声すらも届かない。



「……。」


 

 鮮烈な血の匂い。



「せつ…な……?」


 恐る恐る足を進める。


 自分でも、何があるのか

 想像がついていた。


 想像が胸を締め付ける。


 考えたくない。


 嫌だ。


 いやだ。


 


 



 そして、想像は現実となった。


「あ、ぁぁぁ……」


 

 そこにあったものは――。





 ――うわぁぁぁぁあ!!!

 

「どうしたお前さん。目覚めが悪いじゃねぇか。」

「め、目覚め……?」

「おう。もう朝だぞ?」

「え、あ……」


 辺りはすっかり朝になっている。


「お、おはよう…ございます……。」

「一体どんな夢を見たんだ…?様子がおかしいぞ?」


 夢……。


 夢か……。


「な、なんでもないですよ……?」

「そうか。ま、無理しすぎるんじゃねえぞ?」

「だ、大丈夫です……」


 落ち着け。落ち着け。


 揺れ動く心を無理やり抑える。


「にしてもお前さん、昨日は相当疲れたんだな?帰ってから寝るまでがむちゃくちゃ早かったぞ!」


 確か昨日は、帰ってからご飯も食べずに寝たんだっけ。


 そのせいか、お腹が猛烈に空いている。


「か、帰ってから、すごく疲れが来てしまって。」

「魔術は体力の消費が激しいからな。練習したてのお前さんなら尚更だろうよ。」

「な、なるほど…」

「やってる内に、段々と慣れてくるもんだ。それまでは我慢だな!」


 数打ちゃ当たる。か。


 え?使い方が間違ってるって?



 ……僕もそう思うよ。(大嘘)


「と、とりあえず、お腹すいたし、ご飯食べます……。」

「はっはっは!食欲があるのはいい事だ!弁当なら机の上に置いておいたぞ!」


 気が利くなぁ…。


 ジーニウスさんの言う通り、机の上には木箱と水筒が置いてある。


「んじゃお前さん、ゆっくり食べろよ!」

「は、はい!ありがとうございます!」

「はっはっは!いい返事だな!」

 そうして彼は、満足気に一階へと降りていった。


 

 さてと。


 僕も早速、お弁当を頂こうかな。

 早く食べないと、お腹と背中がくっついてしまいそうだし。


 こうして見ると、結構しっかりしたお弁当だな。

 大きさは二段弁当程度。

 しっかり中身が詰まっているのか、けっこう重たい。


「中身はなんでしょうか、ね!!」

 勢いよく蓋を開ける。


 するとそこには……



 

 デカデカと、ニコちゃんマークとハートが描かれていた。


 


「え、えぇ……?」

 その高いクオリティに思わず戸惑ってしまう。


 これは、海苔か何かだろうか。

 ご飯の上に丁寧に盛り付けがされていて、時間がかかったのだと推察できる具合だ。



 (よし。食べよう。)


 どんなお弁当でも、人が作ってくれたものだ。

 何も文句はない。

 


「い、いただきます。」

 人の手作りなのだ。

 何も文句はあるまい。あるまいぞ。


 

 そうして僕は、ジーニウスさん特製の"愛が籠ったであろう弁当"を頂いた。


 

 なかなかに美味しかった。

 

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僕はこの世界で死について考える。 みかみ @mikami_novel

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