第2話 下山

 うーん。昨日はお酒を飲みすぎた。元々弱いのに三本も飲んでしまった。

 エルウェンさんも九本くらい飲んでご機嫌だった記憶はあるけど。


 見慣れない部屋。薬草とお香の匂いが少しおばあちゃんの家を思い出させる。

 なんで俺、全裸なんだろうか。

 布団を捲ってみると、これまたスッポンポンのロリババア。おいおい。


 おいおいおいおいおいっと、まずは焦らずに服を着る。昨日は何もなかったよね。

 記憶がないしそうだよきっと。


 外に出て、昨日の桶に残っている水で顔を洗って、残ったお金で歯ブラシを購入する。五百円ってこの安物の歯ブラシが? おばちゃん、ボリすぎだって。

 なんか体がベタついてる。シャワー浴びたい。


「なんか体の調子が悪い。おう、タクミ、なんか覚えているかの?」

「全然わかりかねますね。お風呂とかあったりしますか?」

「ぬう。直ぐに用意しよう。ただ我が先だし、覗くなよ」

「覗きませんよ」


 昨日は散々飲み食いしたな。残りが千円しかない。シャンプーもリンスもないか、そうだよなー。

 薬局でもあればな。お、でも石鹸はある。固形石鹸懐かしいなー。

 

 少しして、エルウェンさんがお風呂から出てきたので変わって入る。

 石造りの温泉みたいな立派な露天風呂だ。シャワーとかはないみたいなので、桶を使ってかけ湯をして、体を洗う。


「それで、エルウェンさんはなんで覗いてるんですか?」

「風呂のマナーを知ってるのか気になってな」

「間違ってますか?」

「問題ないようじゃな。それでその白いのはなんじゃ」

「石鹸です」

「それがか? ふむふむ、良い匂いがするな。なんで我が入る時に出さなかった」

「別に持ってるかと思いまして、体洗うので出て行ってもらえます? それとも洗うサービスでもあるんですか?」

「こ、この変態め!」


 やっと出て行ってくれた。

 風呂、広くていいなー! 露天の景色も最高だ。


 風呂から上がると、エルウェンさんがタオルと着替えを用意してくれていた。

 ありがたい。

 着心地は悪いけど、シャツとズボンを履く。靴も回収されててサンダルみたいなのが用意された。

 なんで靴まで?


 台所にもエルウェンさんはいなかったので、寝室をノックしてみるが反応がない。

 もう一つの扉もノックすると、反応があった。


「失礼します」

「ん? どうした?」


 俺の靴や服を持って、何してるんですかとツッコミたくはなる。


「珍しいですか?」

「うむ、精巧な作りだな。異世界というのは進んでいるんだのう」

「そうですね。科学が発展してますから。ただエルウェンさんみたいに直ぐその場に水を生み出したりはできないので、ある意味ではこっちの世界の方が凄い部分はありますよ」

「ふむ、ふむ。タクミのスキルを進化させれば類似するものを生み出す。金を対価に生み出すこともできるのか?」

「できます」


 俺が直ぐに断言したことで、何かを考え込んでいる。


「昨日食べた甘味よりも更に甘く絶品で、昨日飲んだ酒より更に美味しく強い物も出せるようになりますよ。ただ人に販売することが重要になってくるみたいなんです。エルウェンさんのお力を貸していただけないでしょうか」

「ふむふむ。そうか、いいだろう。しばらく人里には降りてなかったが、いい機会だろう!」


 決断をしてくれたようで、直ぐに出立の準備を始める。靴だけは返してもらった。

 エルウェンさんの黒い空間の中に椅子だったりフライパンなど、家の中のものがどんどん吸い込まれ行く。便利でいいなぁー。アイテムボックスってやつなのかな。


 外に出ると、杖を高く掲げて鈴を鳴らすと牛がまた出てくる。

 今回は数頭いるな。


「暫くは戻ってこない。好きに生きるがいい、二人だけついてくるのじゃ。タクミ、乗るのじゃ」


 ええぇ、ちょっと届かないって! 小さいのになんでそんな軽やかに乗ることできるんですか?


「鈍臭いのう」


 エルウェンが土で階段を作ってくれる。どうもありがとうございますっと。

 おお、高い! 怖い! 


「不恰好な乗り方じゃな」


 牛に抱きつくような格好だ。鼻に肌が当たって臭いって言ったら牛さんが怒るかもしれないが、臭い。

 ただ落ちるよりはマシだ。


 まったりとした速度で牛さんが山を降る。これは思ったよりも快適だ。

 

「あんぱんはないのか?」

「待ってくださいね」


 えーっと、再入荷まであと八時間? 購入してから二十四時間必要みたいだ。

 他になんかあるかな。うん、ない! 在庫少ないからなー、お菓子も昨日出したつまみ以外は置いてない。

 

「飲み物くらいなら」

「空きっ腹に酒はなー。食べ物はないのか?」

「ないっす」

「むむ、干し肉で我慢するか」

「俺にもくださいよ」


 固い! 塩っぱい! ワイルドな味だな。これはちなみに何の肉なんだろうか? 怖いから聞かないでおこう。

 


 牛にどれだけ跨っただろうか。後半はエルウェンさんが仰向けに寝ていたので、俺も真似て寝ていた。

 思った以上に牛さんの安定感が凄い。

 夕暮れ前には村のようなとこに到着したんだけど、村の門の前には衛兵の人が立っていて俺達のことを警戒している。


「貴様らは何者だ!」

「我の名はエルウェン、こいつはタクミじゃ。山に住んでいたんだが、訳あって降りてきてな」

「エルフか?」

「ハイエルフじゃ」

「ちょっと待て、村長を呼ぶ」


 ハイエルフ。最初にもそんなこと言ってたな。もしかしてエルウェンさんて凄いのかな?

 衛兵の人が一人だけ残ってビクビクと槍を構えている。間違って俺を刺さないでくれよ。

 少しして偉そうな爺さんが出てきた。


「貴方様がハイエルフとは本当ですか?」

「いかにも。この村にも百年くらい前には来たことがる。もっと小さかったと思うがな」

「これは天の助けかもしれん。お通ししろ」


 天の助け? 厄介ごとの香りがするんだけど。

 

 

 


 

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