スキル『商店街』で異世界を盛り上げる!!

コンビニ

第1話 邂逅

 ん……鬱蒼とした森だな。

 俺は死んだのか? いや、ただの夢だろう。


 商店街に侵入した暴走車に俺は……車が入れない時間帯には車止めとかを設置できるように、市に提案をしてもらわないとな。こんな寂れた商店街に今更行政が動いてもくれないか。

 さぁ、早く起きないと。親父の遺品を片付けないといけない。


「夢にしてはリアルだ。歩いてるうちに目も覚めるだろうか?」


 

 なんだこれ、夢じゃない? 普通に疲れるんだけど。

 獣道をなんとなく進むけど、これは明らかに上っている。山なの?

 なんとなく進んでみると開けたとこに出る。やっぱり山だったみたいで広大な森が広がっていて、幻想的な風景だ。


「綺麗だ」

「な、何を言っているのだお主は! 初対面の相手にいきなり告白など」


 え? どなたですか? 金髪のおかっぱ頭に尖った耳が出ている。民族衣装なような可愛らしい服を着ている17歳くらいの少女があわあわしていた。あれはエルフってやるなんだろうか。

 今更、風景のことですと言えば角も立ってしまうだろうし、実際に綺麗な女の子だし訂正はしなくてもいいか。


「告白のつもりはなかったんですが……綺麗な人だと思って、失礼しました」

「正直なのは良いことなのじゃ! それでこんな辺鄙な山奥で何をしている」


 これってやっぱり夢じゃないよな。異世界……転生。


「気がついたらこんなところにいまして、自分は遠藤 拓海 (えんどう たくみ)と言います。厚かましいお願いなのですが道に迷ってまして、助けていただけないでしょうか」

「うーむ。まぁ、とりあえず家に来るか?」


 少女は持っていた杖を上には鐘がついており、それを高らかに掲げて鳴らすと「モー」と牛がやってきた。日本にいた牛と似たような感じではあるけど、なんか突かれたら死にそうな角が生えている。

 少女は華麗な身のこなしで牛に跨ると、「モー」と更に上に上っていく。俺も乗せてくれないかな。

 

 

 はぁはぁ、めちゃくちゃ辛い。何分くらい歩いた? 三十分は歩いたんじゃないかな。

 道中、彼女とは世間話をした。


「私はエルウェン、今年で321になる。まだまだピチピチのハイエルフなのじゃ」


 ロリババアじゃねーか。


「俺は今年で31です」

「ほう、おっさんじゃな」


 事実なんだけど、この人に言われるのは違和感がある。

 ハイエルフの寿命は千年くらいらしい。そう考えればピチピチというか、人間換算で俺と同じくらいの年齢になるんじゃないかな。余計なことは言わないけどさ。


 計一時間歩くと、雰囲気のある幻想的な家に到着した。

 なんか薬師さんとかが住んでそうな小綺麗な家だ。


 家の中に入ると、台所にテーブルが直ぐにあって奥が寝室とかになっているのだろうか、部屋がある感じはする。

 椅子を薦められて座ると、歪ではあるけどガラスのカップとポットが出される。

 ポットの中に果実をいくつか入れて、手から水を出した! 魔法だ!


 注がれた水を直ぐに口を付けるのは心配だが、ここまで来て山姥ってこともないだろう。

 喉も乾いてたので一気飲みでいただく。美味い。適度な酸味もあって体に染み渡る。


「ふむ。度胸はあるようじゃな」

「貴女を信頼する以外の選択肢がありませんから」

「それで話してみー」


 親父が病気で亡くなって商店街にあった家に帰省をしてたこと、そこで暴走車に轢かれてしまったことを話したがやっぱり車などの単語は理解してもらえなかった。商店街もいまいちわかってもらえなかったけど、市場のようなもので納得してくれた。


「俺はたぶんですけど、この世界とは別のとこから来たんだと思います」

「異世界人か。私も会うのは初めてではあるが、実例がなかったわけでもないのじゃ。昔語りで似たようなこともある」

「俺は帰れるんでしょうか」

「諦めた方がよいだろう。帰れたとしても体という器がなくなってる可能性が高いのであろう?」

「そうですね。少し外の空気を吸ってきます」


 外は夕暮れで、太陽? が落ちかけていて美しい夕日が広がってる。

 なんてこった。はぁーショックだ。別に立派じゃなくて程々の仕事で彼女もいたわけじゃないし、いいんだけどさー。

 エルウェンさんは冷静だな。年の功ってやつだ。

 帰るって選択肢はないわけだか、異世界にきたのであれば定番のチート能力とかないのかな?


「ステータス! オープン!」


 何も出てこない。


「何を騒いどる」

「いえ、この世界ってスキルとか能力とか可視化できたりしますか?」

「当たり前であろう。こうじゃ」


 上か下に手を動かす。俺には何も見えないんだけど。


「誰にでも見せてよい物ではない。お前もやってみー」


 同じような動作をするとウィンドウが出てくる。

 自分の年齢、能力値は−−軒並みFなんだけど。これって弱いよね?


「見せてみー。私に見せることを許可するように念じるんじゃ」


 はいはい、許可、許可っと。


「劇的に弱いのぉー。そこらにいる犬か子供の方が強いぞ」

「終わった……俺の異世界生活終了のお知らせ」

「ただこのスキルはなんじゃ? 『商店街』?」


 商店街? タッチしてみると選択肢が出てくる。

【商店】【肉屋】【魚屋】

 店をアンロックできるってことか? おいおい、今流行りのネットショッピング物と比べたらしょぼくないか?

 この中なら、商店かな。近所のおばさんがやってたなぁ。

 おばちゃん達の溜まり場になってて、学校帰りに麦茶とか無料で出してくれたりしてな。

 賞味期限が切れてるパンとかめちゃくちゃ古い電池置いてたりもしてたっけ。

 半分趣味みたいなもんで営業してなかった。でも菓子パンとか飲み物、懐中電灯とか調味料も置いてあって、値段は専門店よりも割高だけど行けば何かしら揃う店でよかったんだよなぁ。


 ここで肉屋とか魚屋は悪手。まずは広く浅くだ!


「どうじゃ?」

「使えるっぽいですけど、お金が必要みたいで」


 百人の利用で次のお店をアンロック! お金を入れてね! みたいなアイコンが出てる。

 

「どれどれ、美味いもの食べさせてくれるかや?」

「どんな物をご所望で?」

「甘いものがよいのぉ」


 受け取った銀色のコインを入れると一万円と表記される。

 あんぱんでいいかな? 三百円? 高くないか、これ。まぁ俺の金じゃないしいいか。

 在庫数が一とかしょぼいな。メロンパンとカツサンド、品揃い悪いぞおばちゃん! 今時のコンビニだったらもっと種類もあるのに。

 賞味期限があるものはそこまで揃えてなかったもんなぁ。あとはつまみにー、おおお! ビールも置いてる。子供だったから買うことはなかったけど、飲みもんは置いてたもんな。常温だったけど。


「なんやら色々と出てきたのぉ」

「お酒は飲めます?」

「甘いものの次にいける口じゃ」

「これって冷やしたりもできますか」

「任せておけ! ほほう、銀色で美しいのぉ」


 桶の中に冷えた水と氷を出してくれる。魔法すげぇ。

 外で食事をするのか、黒い空間から椅子やらテーブル、指先から光源まで出してるし。魔法すげぇ。


「俺もお腹減ってるんで半分ずつで」


 あんぱんを訝しげに見てる。まずは俺が食べてみせると、エルウェンさんも続いて口にする。


「んー! 甘いの! 豆か? 砂糖を贅沢に使っておるわ」

「これも美味いですよ」


 メロンパンを渡す。半分って言ったのに全部奪い取られた。



 


 


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