第3話

日に日に私は笑顔を取り戻していった。

零士さんは、毎日、私を抱きしめて寝てくれる。

怖くないと言われているようでとても安心する。


言葉を交わしてゆく内に、少しずつ零士さんを知ることができるのも嬉しい。

ずっと、クールな人かと思っていたけど、案外お喋りな人だった。




「零士さん、待ってください!」


「早くしろよ。おっせえな」


「なんなんですか!さっきの!」




私の居場所。

今度こそ、失わないように。

大切に、大切に。



「っ、私達は、そういうのじゃ…!」


「そういうのってなんだよ」



カップル割引で購入した、いちごアイスを食べながら、ハハっと無邪気に笑う零士さんには敵わない。

熱い顔を冷ますように私もアイスを口に含んだ。


彼は私を揶揄うのが好きみたい…。



「上手いか?」


「え?あ、はい。とっても美味しいです。ありがとうございます」



すると満足そうな笑みを浮かべながら私の腰を引き寄せた。

そのまま歩き出す零士さんに私は再び狼狽して立ち止まる。



「ちょっと、っ…!零士さん!」


「んだよ。毎晩、俺に抱きついてくるくせに」


「あ、あれは!」


真っ黒な瞳がジーっと私を見下ろしていた。

言葉を詰まらせるも、彼から視線を逸らすことができない。


「…あー。そか。なるほどな」


「零士さん?」


小さな囁きだったが、しっかり耳に届いた。

私は首を傾げながら、無意識に零士さんの袖を掴んでいた。

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良夜を越えて 下 孤月 @kozuki

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