第2話

何もかも忘れてしまいたかったのに。

神様は酷く意地悪だった。

自分がどれだけ不要な人間かを度々思い知らせてくれる。



あの後、零士さんが向かった先は高層マンションだった。

終始、無言だった私をよそに零士さんはどこか楽しげな顔をしていた気がする。


零士さんは、少し待ってろと言って私を部屋に1人残した。


大きなベット…。

私は脱力するように、寝転んだ。


独りになりたくない。。だって、どうしても思い出してしまうから。

再び負の感情に心が支配されそうになり顔が歪むと、ベットの上で毛布に包まる小さな私の側でギシっと音が鳴る。



「__椿」



怯える私の名の呼ぶ彼は、少し乱暴に私の顔を自分に引き寄せた。



嗚呼、ダメ。

また泣いてしまう。



「零士さん…」



「アイツの事は忘れろ。いいな?」




真っ赤に潤んでいるであろう私の瞳を優しく撫でた彼は、やっぱり少し楽しそうに口もとを弛ませた。


再びギシっと音が鳴る。


思い出したら許さねえ、と零士さんは大きな身体で私を包み込んだ。



泣くのを堪える為に、心の中で何度も何度も彼に感謝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る