第16話
その日も美保奈は誰もいない境内を見つめていた。美保奈が少しだけ瞼を伏せたその時、地面にいる一匹のトカゲが美保奈の目に入ってきた。
「あ……」
美保奈はそっとしゃがみ込むと、トカゲを自分の手のひらに乗せた。静かに美保奈は口を開いた。
「……あなたが自分を愛したトカゲの神さまを憎まなかったように、私もあなたを憎むことはないんです」
トカゲは微動だにせず美保奈を見つめている。美保奈もまた、トカゲを見つめていた。
「あなたが私に優しくしたことに責任を感じることはないんです。あなたが悲しんでいることの方が私は……ずっと辛い」
そう言って美保奈は微笑んだ。
「伝えておこう」
トカゲはチロチロと舌を出して答えた。美保奈はもう片方の手で手のひらを覆い、トカゲを捕まえる。
「何をする。おい」
困惑の声を上げるトカゲを美保奈はくすくすと笑った。
「声を変えても両目にしてもわかる。私はあなたが、大好きだから」
そう静かに告げる美保奈の前に影が差し込む。美保奈は手のひらの中が空になったと同時に、背後にいる眼帯の男の存在を感じて振り向いた。
「お前は本当に愉快だな」
眼帯の男が困ったような照れているような曖昧な表情で笑うのを見て、美保奈も花が咲くように微笑むのだった。
終
神さまトカゲさま思うさまお子さま。 ノザキ波 @nami_nozaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます