第3話【置き手紙】




太陽が昇り、目が覚めるころにはマーカスは居なかった。

だが、机には書き置きが残されていた。

『トカレフ一家のみなさまへ。昨晩は本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れません。マーカス・イェンゲルより。』


そして10年後、僕は旅人兼トカレフ新聞の記者として各地を巡っていた。


これは、古戦場の砦を修復して作られた集落に立ち寄ったときのことだ。

あの日はひどい雨でずぶ濡れになりながら宿へ入って、道中で集めたり撮ったりした情報や写真を分厚いノートにまとめながら一晩を過ごした。

月が中天に昇る頃に眠り朝早くに起きたとき雨は止んで、目一杯広がる快晴が宿の窓から見えた。

しばらくは人のいる場所でで休むこともなく、モンスターの襲撃に怯えながら野宿したので疲れた体が癒えてから路銀稼ぎの仕事をしながらこの集落に滞在することとした。


今は旅人向けの仕事で、門衛の仕事と周辺のモンスター退治がある。

僕は戦いの心得はあるので、退治の仕事を請け負ったのだった。


モンスター退治の仕事では、マーカスという青年が僕の指揮をするようだった。

ん?マーカス?というような予感は的中した。

その青年も、僕に対して「もしかして、トカレフ新聞の者か?」と開口一番に訊いたのである。

マーカスは魔導狙撃銃を携えながら、僕よりも高い身長で見下ろしていた。

ちくしょう……身長が低いのは前世でも同じだったが……いいや、もう忘れよう。

「そうです、アレクセイ・トカレフと申します。」僕は丁寧に答える。

「そんなに畏まらなくていい、昔の縁だからな。」

マーカスは、微笑んだ。

モンスター退治は夜に行うが今は昼下がりなので自由時間だった。

僕はマーカスに「少し話さないか。」と言われたので、集落唯一の喫茶店へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人を呪わば冒険ふたつ 神原 暁 @akira_kamihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ