第2話【神への謁見】




私が目を覚ましたとき、目が潰れるように眩しい空間にいた。

「辻野 花。お前は人を呪い、道連れとして自分も死んだ。その罪は重い、だが我々には輪廻を与えることしかできない。人間たちのいう天国や地獄は存在せず、在るのは命の循環だけなのだ。」

「だが、お前が呪い殺したもうひとりと同じ世界に転生することが決まっている。縁が深くつながっているようだ、互いに記憶は残してある。来世で同じことを繰り返さぬよう努めよ。」

光の向こうにいる”何か”は、私にそう告げる。


光がより一層強まり、私……いや僕は生暖かく優しさに満ちた空間で10ヶ月ほどを過ごした。


産声を上げるまでの10ヶ月間、僕は全てを忘れていた。

自分の声が耳にまで響いたとき、全てを思い出した。


ツジノハナ、ニサワシノ、コドク、コンビニアルバイト、ガッコウ……その膨大な言語的情報が頭の中に流れ込み、形を成して記憶となったのだ。


どうやら、僕が生まれたのは様々な情報を集めてそれを新聞として売り出す家業を持つ一家だった。

そして新たに与えられた名前が「アレクセイ」だ、僕はこれからこうやって名乗っていくらしい。


改めて自己紹介をしよう、僕の名前はアレクセイ・トカレフ。トカレフ新聞を営む家の息子である。

この世界にはインターネットが存在していない。

故に、新聞や書籍を用いて情報を得る。

印刷や写真の技術はあるものの、原始的な方法や魔法を使ったものなどがほとんどだ。


これは僕が7歳のときの、ある日暮れどきのことだった。

トカレフ新聞の拠点である山小屋に、ひとりの少年が訪れた。

彼は…そうだね、当時は12歳かそのくらいだった。

「追われているんです!!匿ってください!!」

声変わりもしないような高い声で、彼はドア前で叫んだ。

この山小屋は雪山にある、放っておけば彼は凍死するだろう。

両親は少年の悲痛な叫びを聞き、山小屋に迎え入れた。

少年は「マーカス」と名乗った。

「日が昇るころには出ていきます。食事も要りません、ただ匿ってください。」

彼は部屋の片隅にぽつねんと座り込み、ときどき30分ほど眠るような様子だった。

僕は心配になって、母親に相談した。

「マーカスさん、お腹空いてないのかな。乾酪だけでもあげていい?」

母親も父親もマーカスに食事を何度も勧めたが、断るか無視するかのどっちかだった。

「いいわよ。…だけど、もしかしたら反応は同じかもね。」

僕は乾酪の小さなひとかたまりを母親から受け取り、マーカスに近寄った。

「あの…これ、雪山だと居るだけでも疲れるので。食べてください、僕たちトカレフ新聞はあなたの味方です。」

マーカスは僕を睨むと、「新聞…?あなたたちは俺の情報を売るつもりですか?その乾酪を引き換えに。」

僕は黙り込んでしまった。

彼は警戒心が強すぎる。だが興味があるので、少し会話をしてみることにした。

「なんで、追われているんですか?」

僕は尋ねた、マーカスは少し躊躇うような表情をして黙り込んだが、語り始めた。

「………俺はとある国の貴族だったんですが、革命が起きて上流貴族は皆、処刑され始めたんです。父上も母上も断頭台で死にました。」

彼は力無い声で語ると、僕に問いかけた。

「もし、もしですよ。前世や来世が存在するならば、また父上や母上に会えると思いますか?」

……僕が生まれ変わりの身であることは、誰も知らない。

だけど僕は「ええ、あります。きっとあるんです。」とだけ答えた。

マーカスは微笑むと、「あなたは、まだ幼いのに話し方がしっかりしている。名前はなんと呼ぶんですか?」と問うた。

僕は「名前はアレクセイです。」と答えた。


僕は、この世界で生きていく。

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