第6話 甘い言葉の代金は。
木更津哲也との話し合いは終わった。
でも、私には最後の仕事が残ってる。授業が終わった後、金成くんは窓の外を眺めていた。これから、きょうだいたちのために、少しでも生活費を稼ぐために授業が終わったら速攻でバイトに行くんだといって――。
「その前に、あなたの愛しい愛しい彼女からのプレゼントを受け取ってよ」
あなたの愛しい~は当然ながらスルーされる。彼の手に乗せたのは、そこそこの大きさの包み紙。丁寧にテープをはがし、中身をみて金成くんは絶句した。
「これ……」
「欲しかったんでしょ? このテキスト」
彼は足りないテキストがあった。それを毎回、他人から見せてもらっていたり借りてたりしてた。これさえあれば、彼は家でしっかりと勉強ができるだろうし――
「助けてくれた追加のお礼。哲也ときちんと話してきたの。すべての誤解を解いてきた。だから、彼氏役はもういいわ。お弁当は約束通り、卒業まで用意するから安心して。――私たち、別れましょ」
「別れてもいいけど、俺も琴音のこと好きだよ」
「俺も?」
「こないだ、校舎裏で女どもに囲まれていた時に――俺の事好きだって言ってただろ」
「ああ……あれ、聞いてたのね」
「大好きな彼氏の金成くんが~、あたりから聞いてた。何かあったら助けようと思ってたけど、想像以上に大丈夫そうだったし」
「まあ、あの程度なら別にどうってことないわ」
そう私がいったところで、先ほどの金成くんの言葉が蘇る。
「ん? ちょっと待ってよ、俺も好き、って何よ? そもそも、甘い言葉はオプションで――有料なんじゃなかったの?」
「本音なら無料だ」
「そう、
……ん、本音?
私は首を思わずかしげてしまい、そのまま金成くんの方をちらりと見やる。
「本音ッ!?」
ようやく理解し焦る私の方を金成くんはじっと見てきて、手をそっと重ねててきた。そのままぶわっと羞恥心が込み上げる。
「さて……琴音。俺と本当に、別れられると思う?」
その言葉に私は耳まで熱くなっていくのがわかった。
「まって、金成くん。いま、琴音っていった? だって、いままで私の下の名前を呼んだことなんて」
「とりあえず、試してみようか」
「何を!?」
……金成くんは強欲だ。
本当に、本当に強欲だ。
将来の夢、毎日の弁当、デザートも、そして私ですらも手に入れたいと?
……ええ、そうよ。本当に、私はあなたのことが好きなのよ。
最初から。
ずっと、ひっそりと好きでたまらなかったの。
ニセでも仮でも彼女に……なりたくて。
ファンじゃない、って頑なに強気でいっていたけど――誰よりも、入学してから一番のファンだったのよ。
他は誰も見てなかった、ずっと。
毎日、バイトばかりで頑張るあなたを。
きょうだい思いで努力家のあなたをずっと。
「……金成くん、大好き……」
「知ってる」
「……わたし、ずっと、好きだったの……」
「それも知ってる」
泣きそうになるのを、ぐっとこらえた。
ようやく心から吐きだせた本音。
「最初に提案されたとき、『嘘でいいのか?』って思ったから」
あの時、言葉に詰まったのはデザートの事を考えてた訳じゃなかった。
ポタリと一粒、地へと涙がこぼれ落ちる。
ぎゅっと握り返してくれたその手は、ずっとずっと温かくて。
――これから、ずっと一緒にいるからと。
そんな彼が、猛勉強の末に――将来たくさんの人を救う敏腕弁護士になったのだが、それはまた別の機会に語らせていただこう。
【短編小説】金成くんは強欲です! 岩名理子@マイペース閲覧、更新 @Caudimordax
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