第13話 李も桃も桃の内
「でも良かったね!皆が元通りになって!」
「そーだねー*万事解決だよ*」
「いやまだ何も解決してないんだけど!…」
まだ何も解決してない。
短距離走でいうスタートダッシュでもなく加速疾走でもないまだラインに立った程度の進捗具合。
初期位置へ向かうのに絆創膏だらけで辿り着いてどこからおかしいのやら。
「でも皆頑張ってるよ*こんなことになっても立ち向かうのってやっぱり凄いと思う*」
震える身体を強く抑えて骨が折れそうなくらい痛くても、課題困難に対峙するのは自分たちにしかできてない功績だ。
「うん!すごいよみぃ達!!」
満面に笑みで見つめ合うそれもこれも自分たちにしかできないこと。
句読点ばかりの道のりが動くのも、健常者でいられているのも。
「そういえば学校はどうなってるの?」
「んー夏休み中だし皆やってても部活くらいじゃないかなー?*」
「部活かー!2年の頃とか皆頑張ってたよね!みぃ的にはもう引退気分だったけど!」
「そう考えたら不思議な気持ちだねー*」
青春の時間。
それはとても大事なもの。
でも、その時に何をやっていたって結局は自分にとっての青春だったんだなと思い返したりする。
“アニメ三昧の3年間”でも“失恋しかしていない3年間”でも、思い出となれば自分だけのものへ変わる。
「………うっ…」
背中に激痛が走る。
走るにも色々あるだろう。「部活ばかりの高校生活でずっと走っていました。」とか「毎晩もやもやしていたので勇気を振り絞って告白しました。でもその場で振られたので泣きながら走って帰りました。」だっていつかは笑い話にできるだろう。
「ももちゃま!?だ、誰!!!」
誰にしたって「誰にも話しかけられず1人で読書をしていました。でも家に帰ればネットがある。唯一の居場所です。」だとか「文化祭には参加したほうが良いと思い頑張ったのにクラスメイトから誰?って聞かれた。」やら悲しくも良い思い出となった。
そう言うやつもいる。
「誰かなんてどうでもいいよ。お前らの味方はもう全員死んだんだよ?よくもまあ夢心地気分でお話できるね。」
「…え……。…!ももちゃま大丈夫!?」
「あ…あー……まだなんと…か…」
楽しくなかった。有意義じゃなかった。何も得られなかった。想像と違った。
色んな意見があると思う。
でも感想が言える時点で幸せなんだと思う。
その感想がポップ体で描かれても明朝体で綴られても。
それは自分にしか言えない感想、そう思うから。
「ちっ、早く死ねよ平和ボケ」
「なにしてんだよ!!!」
渾身の一撃も空中で止まり、拳が届く前に脇腹が熱くなる。
普段付くはずのない傷に恐れをなし、全身に寒気を填める。
「ああああああああ」
つま先から脳天にまで血が流れている。
わかっていても気にしない。普段あまり考えない当たり前のことを考えた時、こわくなることがある。
『もし自分だけが人間でそれ以外自分のために作られたものだったら?』
『もし自分の人生が世界に放送されていたら?』
これを今の御時世に呟くとお前やばいなどと言われてしまう。
でもわかる気がする。
実は皆考えたことあるんじゃないか。
「哲学的ゾンビ」という名称がある事実に目を向けないのか。
「……ぁ」
結局なにもかも考えるだけ無駄。
だからきくちゃんは自分が楽しければ良いという生き方をしているのか。
皆違うようで皆同じ。
なんなら皆違ってみんないい。
金子みすゞも言っていたじゃないか。
私もあの子もあいつも同じ。
李も桃も桃の内。
堕落と理想な主人公! 七芽たそ @nanametaso
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