ぼくのおさんぽ♪

千織

てくてく♪

 はだ寒くなってきたが、ぼくは日課のおさんぽをかかさない。


 石だたみの道を歩く。

 パン屋からいい匂いがして、ぼくの鼻は自然とひくひくした。



 家と家のスキマから、おともだちのタマが出てきた。


「やあ、タマ♪ ごきげんいかが?」


 そう話しかけたが、タマはこちらをチラリと見ただけで、何も言わずさっさと行ってしまった。彼女はなかなかにくーるなのだ。でも、いつかは彼女から香箱座りというものをおしえてもらいたいものだ。



 しばらく歩くと、ハトとカラスがいた。スナックのママが道路にまいたエサをついばんでいる。二羽のハトにカラスが威嚇をする。ハトたちはちょっとよけるが、また平然とエサをついばみ始めた。ぼくが道を通ると、三羽はちょこちょこと横に動いて、ぼくに道をあけた。



 大きな交差点で、おすわりをしながら信号を待つ。ぴっぽー♪と信号の音が鳴ったので、横断歩道の上をすたすたと歩いた。すれ違う人たちは、ぼくのりりしい顔とかわいらしいフォルムに目を奪われている。ふふ。当然だ。


 ミニスカの女子高生はスマホをぼくに向けた。ちょっと臭う革靴をはいたおじさんは、ぼくが怖いのか大きくよけて通った。黄帽子をかぶり、ランドセルを背負った男の子が物珍しそうにこちらをジッと見ながら通り過ぎた。この子よりはぼくの方が強そうだ♪ ぼくはごきげんで、鼻をならした。



 大きな公園に着いた。

 子どもたちが走り回ったあとなのか、いつもより土ぼこりが多かった。ぼくは予定を変更して、池の方へ行った。


 池にかかる小さな橋の真ん中まで行き、池の中をのぞきこんだ。水はにごっていて中はよくみえなかった。ぼくの顔が水面にうつっているのに気づく。でもすぐに橋の下から大きな鯉がぬぅっと現れて、その波紋でぼくの顔は消えてしまった。


 ちぇっ。ほにゅーるいのぼくの方が強いのに! 鯉の方が堂々としていやがる!


 ぼくはちょっとムッとして、公園の出口に歩き始めた。



「ちょっとよろしいですか?」


 後ろから話しかけられた。振り向くと二人のおまわりさんがいた。


「どうして四つん這いで歩いているんですか?」


「……どうしてと言われても……」


「……すみませんが近くの交番まで、一緒に来ていただけますか?」


 ぼくは二足歩行になり、ぼくの背中側のズボンのベルトをおまわりさんの一人が掴んで、ぼくを歩かせた。



(完)

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