第31話

そのまま、今までで一番優しく抱かれ、腕の中で微睡んでいると、誠が思い出したかのように体を起こす。



同じように体を起こすと、棚から何かを取り出した。



「後ろ、向いて」



言われるがまま、私は誠に座ったまま背を向ける。



首に何か掛けられた。



シンプルな形をした、シルバーのネックレスだった。



「首、いつも触ってるだろ。お前気づいてるか? 触ってる時の顔」



囁く低い声が耳を擽る。



「向井さんに……その……エ、エロい顔してるって、言われた……」



「他の男に見せたのか? 気に入らないな」



「ぅ、あっ……ぃたっ……んっ……」



散々他の人にされてきたのに、今更ながら責められている事に、変な感じがする。



胸の突起を両方同時に抓られて、痛いのに体が熱く痺れて喘ぐ。



「首輪が欲しいなら、これを着けていろ。お前の一生を、俺が全部縛っていてやる」



私の中の矛盾にも、こうやって答えて受け入れてくれる。



もう、私はだいぶ前からこの人じゃないと、やっぱり駄目だ。



「知ってた? 私、誠の事、入学式の時に好きになったんだよ」



私が泣きながらそう言うと、誠は物凄く驚いて、そして少し照れたような顔をした。



私は一生、この顔を忘れないだろう。



私にしか見せない、また新しい彼の顔を。









[完]

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虚無の果て〜深神唯栞の場合〜 柚美。 @yuzumi773

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