成人
あれから数年、何人か友達も増えたし、何人かとお付き合いもした。
あと、ちゃんとお酒を飲んでいい歳になった。
そして、あの日お別れしたケイさんと同じ歳になった。
だからあの約束をした人と今日は久しぶりに会うことになってる。
あの時よりも可愛くなったと自信を持って言えるように昨日今日明日でしっかり休みを確保した。
夏の終わり、雨上がりの夜っていう巻き髪的に最悪なコンディションの日だけど再開する日にはもってこいの日。
私はしっかり駅の名前を確認して携帯から目線を上げると、少し肩幅が広くなった桃樹さんがこちらに手を振っていた。
優愛「ひ、さしぶりー…。」
こんな呆気なく再会すると思ってなくて言葉を準備する間もなかった私を見て桃樹さんは笑った。
桃樹「久しぶり。大人になったねー。」
よしよしと頭を撫でるように私の背が伸びたことを手で表す桃樹さんは私よりも頭一つ分大きくなってた。
優愛「やっぱり外国は栄養価が違うんだね。」
私はノースリーブから出ている腕を上げてあまりない力こぶを作り、桃樹さんにやってみてもらうと前に腕を組んだ時にはなかった筋肉が増えていた。
お互いがあの時よりも大人になったことを実感しながらあの日約束したBARに向かう。
だけど、あの時のように居心地がよくて話しやすいのは昔と変わらない桃樹さんの笑顔が私の緊張していた心を和らげてくれるから。
桃樹「口コミ、結構賛否両論なんだけど本当に行く?」
優愛「行くよ。約束だもん。」
桃樹「まあ、いいけど…。」
ふと、鼻をかすめた匂いの元を私たちは思わず目で追ってしまう。
桃樹「夏の匂いだね。」
優愛「夏っていうか塩素だけどね。」
私たちの目の前を通り過ぎた少年は塩素と安いシャンプーの香りをさせながら古びた銭湯を後にし、夏の匂いに立ち尽く私たちにはおでこにポツリと水滴が落ちた。
優愛「…また、雨。」
桃樹「急ごうか。」
そう言って桃樹さんはマップアプリに目を落としたけど、私は空を見上げた先に見えた店に興味が惹かれた。
優愛「あそこはいっちゃお。」
桃樹「老舗っぽいけど?」
優愛「雨宿りだよ。夜はこれから。」
桃樹「まあそうだね。」
昔と同じように桃樹さんは私に乗せられて店に入るけど、私が知らない桃樹さんの今までは私が過ごしていた大学生とは比べ物にならないくらい濃くてとても大人に感じた。
だから少し遠い存在に感じたけど、少しホッとしたのは智さんと最近よく遊んでるということとまた4人でWデートしようとナチュラルに告白と遊びに誘ってきてくれたことでぎゅっと心を掴まれてしまった。
数軒回って少し足元がふらつくようになってくると、桃樹さんはタクシーに私を押し込まずにホテルのベッドに私を寝かした。
しかも、また手を出さずに。
朝を一緒に迎えた私たちはまだ答えを出さずにいるけど、遊ぶ約束だけを取り付けて学生の頃憧れていたデートを繰り返した。
環流 虹向/愛、焦がれ
愛、焦がれ 環流 虹向 @arasujigram
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