姪の場合


 いつも週末にお仕事をしているのど兄が、今日は珍しくおやすみだから、一緒に遊べることになった。せっかくだからとママにはお弁当も作ってもらって、小さなピクニックをしに公園に連れてきてもらった。週末にのど兄と遊べるなんてあんまりないから、ちょっとわがままを言っちゃった。



「よし、まずは何をしますか?」


「んーとね、すべり台!」


「よーし、それじゃあ、行きましょう!」



 のど兄はお弁当が入ったリュックを背負ったまま拳を突き上げて、楽しそうに笑う。わたしよりはしゃいでいるんじゃないかなって思うくらい楽しそうで、ちょっとホッとした。


 お仕事大変だから、今日は本当は寝ていたかったんじゃないかなって心配だったから。


 わたしがすべり台に上ると、のど兄は踏切を作ってくれた。背が高いのど兄はいつもすべり台の上の方で構えてくれる。ママとはできない遊び方ができて楽しい。


 滑り始めてちょっと。のど兄のところでピタッと止まる。



「電車が通りまーす。しばらくお待ちくださーい」


「はーい!」



 のど兄はガタンゴトンって言うのを止めると、すっと手を上にあげた。ちゃんと左右を確認してからもう一回滑る。


 のど兄は今度は終点で両腕を広げて待っていてくれるから、そこに向かって飛び込んでいく。



「ゴール!」



 抱き上げてくれたのど兄に抱きつくと、くるくる回してくれる。のど兄は細いけど、すごく力持ち。



「のど兄、今度はあれやりたい!」


「あれって、あれですか?」



 蜘蛛の巣を指さしたら、のど兄の顔がちょっと引き攣った。のど兄は高いところが苦手だから。



「分かりました。行きましょう!」



 それでもこうやって抱っこしたまま連れていってくれる。のど兄はわたしがやりたいって言ったら全部叶えようとしてくれる優しいお兄ちゃん。パパはいないけど、のど兄がいるからわたしは幸せ。


 わたしが先に蜘蛛の巣を登って、のど兄はわたしが通った後ろをついてくる。足元を見る度にぷるぷるしているのが最初は面白かったけど、だんだん心配になってきた。せっかくのおでかけだから、一緒に楽しく遊びたいな。



「のど兄、降りよ」


「良いんですか? まだ半分も行ってませんけど」


「うん。お腹空いちゃった」


「それは大変ですね」



 のど兄は途中まで降りると、目をギュッと瞑りながら飛び降りた。そこだけ見ると不格好だけど、のど兄はふわふわ舞う雪みたいで格好良い。



「のど兄」


「はい。来てください」



 わたしはまだ何も言っていないのに、振り返ったのど兄は両腕を広げてくれた。その腕に飛び込んだらそのまま降ろしてくれた。今度は抱っこじゃなくて、手を繋いで広場の方に行くことにした。


 日当たりの良いところでレジャーシートを広げてママのお弁当を開けた。カラフルなお弁当にのど兄と一緒になって目を輝かせる。ママのお弁当はいつもすごい。


 入れておいてくれたナプキンはいつものハンカチじゃなくて、のど兄のお店で配っている紙のやつだった。



「僕がいつもお弁当と一緒に持って帰って使ってないやつです」


「ママ、溜め込むなってよく言ってる」


「返す言葉もございません」



 のど兄はポリポリ頬を掻く。のど兄はママに何を言われても怒らないし、嫌だって言わない。自分が悪くないときも。全部受け止めて、自分が悪いときは直すし、ママが八つ当たりしたときはヨシヨシしてあげる。優しくて格好良いんだ。



「木春、これ、開けられますか?」


「もう。しょうがないなぁ」



 なのにナプキンの袋が開けられなくて困っちゃうのは可愛いよ。眉毛下げて首傾げてるの、たまに弟に見える。


 のど兄のも自分のも袋を開けて、一緒に手を拭いた。



「いただきます」



 一緒に手を合わせてお弁当を食べる。



「美味しいですね」


「うん! 美味しい!」



 のど兄はちょっと頼りないけど、優しくて力持ちで、頑張り屋さん。わたしの大好きなお兄ちゃん。


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