少年の場合
☆
小学校から帰ったら、お母さんがお買い物に行くと言った。僕も1年生になったし、弟も生まれてお兄ちゃんにもなったから。お手伝いがしたくて僕も一緒に行くことにした。
スーパーに着くと、お母さんが弟が乗っている買い物カートを押しながらお買い物をする。その間、僕は迷子にならないように着いていくだけ。
お手伝いしたいけど、僕にできることなんてそんなにないから。それでもなにかできないかなって思っていたら、お母さんが僕を手招きした。
「マヨネーズ、取ってきてくれる?」
「マヨネーズ?」
「そう。分かるかな?」
「分かるよ!」
毎週お母さんと一緒に来ているから、場所は分かるはず。お店の中で走らないって約束をして、お母さんと別れた。
だけどいくらマヨネーズを探しても全然見つからない。思っていたところになくて、困ってしまった。だけどお母さんにガッカリして欲しくないから、スーパーの中を端の棚から1つ1つ見て回った。
だけどやっぱり全然分からなくて、ちょっとだけ泣きそうになった。
「こんにちは。どうかしましたか?」
肩を叩かれて顔を上げたら、スーパーのエプロンをしたお兄ちゃんがいた。スーパーの人なら、変な人じゃないよね? 聞いたら分かるかな?
「マヨネーズ、どこですか?」
知らない人と話すのはちょっと緊張するけど、頑張って聞いてみた。そうしたら、お兄ちゃんはニコニコ笑ってくれた。
「ご案内します。着いてきてください」
頷いてついて行くと、さっき通ったはずのところでお兄ちゃんは止まった。ちょっと恥ずかしいな。
「マヨネーズはここです」
「ありがとうございます! でも、どれか分かんない」
思っていたよりもたくさんマヨネーズが並んでいて、お母さんが欲しいのがどれか分からない。困ってお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんは僕の隣にしゃがんでくれた。
「お家のマヨネーズには、何か絵とかお写真が描いてあるかな?」
「えっと、卵が描いてある」
頑張って思い出すと、お兄ちゃんは棚から3つマヨネーズを取った。全部卵の絵が描いてある。でも、どの絵だったか分からない。
「じゃあ、蓋の色は? 赤かな? オレンジかな? それとも黄色?」
今度は絵じゃなくて蓋の色。いつもお手伝いしているときに見るのは、何色だったっけ。
「えっと、えっと、赤!」
「ありがとうございます。では、これですね」
お兄ちゃんは3つあったマヨネーズから1つを選んで僕に見せてくれた。確かにこれだった気がする。見た記憶がある。
「じゃあ、最後。いつもどのくらいの大きさのマヨネーズかな?」
これだけだと思ったのに、お兄ちゃんは3つのサイズを指さした。どれも合ってる気がする。
「お手伝いのとき、持ったりする?」
「うん」
「じゃあ、ちょっと持ってみますか?」
お兄ちゃんは僕に1つずつ持たせてくれた。見ただけじゃ分からなかったけど、持ってみると中くらいのやつは持ったことがある気がした。
「多分、これ!」
お兄ちゃんを見上げると、お兄ちゃんは僕より嬉しそうに笑っていた。それが嬉しくて、照れ臭かった。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「いえ。またいつでも聞いてくださいね」
「うん! バイバイ!」
マヨネーズが見つからなかったとき、ちょっと怖かった。でもお兄ちゃんが助けてくれたから、僕もお買い物ができた。
お兄ちゃんと別れてお母さんのところに行くと、今度はお母さんがいない。さっきはお魚のところにいたのに、どこに行ったんだろう。
キョロキョロしていたら、マヨネーズのお兄ちゃんがお店の裏から出てきたのが見えた。駆け寄ってエプロンの裾を掴むと、お兄ちゃんは僕に気がついてしゃがんでくれた。
「どうしましたか?」
「えっとね、あのね、お母さん、どっか行っちゃった」
「お母さんか。さっきお肉のところにいたよ」
「ほんと?」
お兄ちゃんが言う通りお肉のところに行ったら、本当にお母さんがいた。お兄ちゃんを見上げると、お兄ちゃんはニコニコ笑いながら背中を押してくれた。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
お母さんのところに駆け寄ると、お母さんはニコニコ笑ってくれた。マヨネーズも正解だって。お兄ちゃんのおかげだよって話したら、お母さんは初めての人と話せて凄かったねって褒めてくれた。これもお兄ちゃんのおかげだな。
振り返ったら、お兄ちゃんはもういなかった。僕の大好きなヒーローみたい。
僕もいつか、スーパーのお兄ちゃんみたいな優しくてかっこいいお兄ちゃんになりたいな。
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