IO~高校生探偵達の事件簿~

海老石泥布

第0話 特別探偵法

 ここ数年で日本は変わった。

 

 二週間前は、首から上を氷漬こおりづけにされた変死体が冷凍倉庫から見つかった事件が、連日のように報道されていた。先週は、無数のガラス片が突き刺さった変死体についての報道があちこちで飛び交っていた。今週は、心臓を摘出されて殺害されていた変死体の話題で持ちきりである。

 これら全ての事件を引き起こしたのは、とある犯罪組織だったという事はすでに判明している。世間の混乱を防ぐため、いまのだが。


 犯罪組織の名は──“インフェルノ”。


 彼らの暗躍あんやくによって、数々の凄惨せいさんな事件が今この瞬間も次々と発生している。

 日本が世界屈指の治安を誇っていたのは、もう過去の話なのだ。

 勿論もちろん、この惨状を日本政府が黙って指をくわえて見ていた訳ではない。政府は早急に新たな法律を施行した。


 “特別探偵法とくべつたんていほう”である。


 資格試験に合格して特別探偵の免許を取得すれば、という新たな法律である。

 その斬新過ぎる発想ゆえに、この法律は当初は有効性が疑問視されていた。しかし増え続ける凶悪犯罪に対して、それは想像以上の成果を上げたのだった。今この瞬間も、優秀な民間の探偵によって何件もの事件が解決に導かれている。

 これまでは、人手不足な警察に急増した犯罪の捜査をする余裕は無かった。おまけに警察は、組織に所属する人間特有のしがらみや、腐敗した有力者による事実の隠蔽いんぺいなど、数多くのを抱えていたのだ。

 だが“特別探偵”は、それらとは無縁である。探偵は組織の人間として行動を制限される事も無ければ、世間体のために事実をじ曲げる事も無いのだから。

 警察は今後も、探偵達と友好な付き合いを続けていくべきだろう。決して彼らをあなどってはいけない。

 例えそれが──高校生であっても。 


 さて。一部の界隈かいわいでは今、“特別探偵”である一人の男子高校生に注目が集まっている。彼は警察から裏社会に至るまで幅広い人脈を持ち、今の日本に裏から多大なる影響を及ぼしているという。

 一説には、“特別探偵法”が施行されたのも彼の謀略ぼうりゃくであるとささやかれているが、真偽しんぎほどは定かではない。


 その男子高校生の名は──雨倉御砂あめくらみさごという。

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