第2話

俺の名はアリアス。

自分が「勇者」であることは、物心ついたときから理解していた。

母ちゃんの話によれば、勇者ってのは「生まれつき」特別な存在らしい。普通の人間とは違う――いや、かなり違うってわけだ。実際、村では大人にだって負けたことはないし、近くに出る魔物だって簡単に倒してきた。


だから調子に乗ってたんだよな。

まさかあんな少女に負けるなんて、思いもしなかった。


村には帰れねぇ……。


だって村を出るとき、リリアにこう言っちまったからな。

「世界一の勇者になって帰ってくる!そしたら結婚してくれ!」って。


リリアってのは俺の好きな子だ。

でも、その宣言をした直後、ただの勇者でもない少女にコテンパンに負けて――そんなんでどうやって帰れるんだよ。このことが知られたら、リリアが他の男に取られるのは目に見えてるだろ。まだ付き合ってないから、浮気とは言わねぇけどさ。

いや、そんなこと今はどーでもいい!


「エリクさん、報酬の準備ができましたよ」


受付嬢の声に呼ばれ、カウンターに向かう。

俺は今、名前を「エリク」と変えて、別の国で冒険者として活動している。だって恥ずかしいもん。あの試合以来、村中のやつに馬鹿にされてよ。あの時なんて、俺より10歳くらい年下のガキに「弱虫勇者」なんて言われてさ。正直、かなりキツかった。


「報酬の7000リスタです」

「サンキューな」

「一月でCランクまで上り詰めるなんて、なかなかいませんよ。これからが楽しみです」 


人間、ならな。


「いくら褒めたって、金はやらねーぞ」

「いりませんよ。担当してる冒険者が高ランクになると、私の評価も上がるんです」

「そーかいな。じゃ、もっと頑張るよ」


さ、宿に戻るか。

それにしても俺の担当の受付嬢、美人だから話すと緊張すんだよな……。リリアがいなけりゃ、惚れてたかもしれねぇ。


ギルドのドアを開け、外に出ると――目の前に、見覚えのある顔があった。

今、この世でいちばん会いたくない女。


「あなた……アリアス?」


「その名を口に出すなああああああ!」


俺を負かせた少女、ミリーナがそこに立っていた。

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俺、勇者なのに弱すぎるんだが マウンテン @yama3989

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