俺、勇者なのに弱すぎるんだが

マウンテン

第1話

闘技場は熱気に包まれていた。観客たちは興奮した表情で、闘技場の中央に立つ二人の戦士を見つめている。

片方は生まれながらにして勇者とされた青年。もう片方は、ただの人間である少女だ。


「どっちに賭ける?」

「決まってるだろ。勇者にだ。田舎から出てきたばかりで初戦だって言っても、勇者は特別だからな」

「わかってるさ、そうじゃなくて、夢を見てみるかって話だよ」

「バカ言うな。お前、毎回そんなこと言って金がなくなってるんだろ」

「男はロマンだろ?」

「あーあ、ほんとに賭けやがったな」

「おい、もう始まるぞ。急げ!」


観客たちの視線は再び闘技場に戻り、中央に立つ少女を見つめる。黒髪を風になびかせ、堂々とした姿を見せていた。


「おいおい、ただの人間が俺に挑むってのか? ケガする前にやめとけよ」

青年は誇らしげに笑う。

「勝負は最後まで分かりません」

少女は静かで落ち着いた声でそう答えた。


「はじめ!」

レフェリーの合図とともに戦いが始まった。


「嘘だろ…?」

「勇者が圧倒されてる…だと?」


困惑する者、焦る者、狂喜する者。闘技場は一瞬にしてカオスに包まれた。


「終わりです」

少女の剣が勇者の喉元に向けられ、完全に勝負は決まった。

少女に賭けた者たちは歓喜に沸き、逆に勇者に賭けた者たちは頭を抱えていた。勇者の敗北は、誰も予想していなかった。

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