第14話
「にわか雨だね。しばらく雷が続くみたい」
「う、そうなんだ」
スマートフォンで手早く調べた天気予報のサイトにある雷レーダーを見れば、今いる地域周辺に雷マークが密集していた。
「うそ……」
スマートフォンの画面を見た響の顔はすっかり青ざめていた。
そんな怯える響に容赦なく、再び雷が落ちる音が轟いた。
「いやっ」
響は小さな悲鳴を上げ、素早く悠に抱き着いていた。相変わらず体が震えている。
「雷も苦手?」
髪を撫でながら尋ねると、響は見上げるなりこくりとゆっくりと頷いた。眦に少し涙を浮かべている。
「あの、悠くん……もう少しこうしていてもいい? 外に出るの、まだ怖い……」
震えながら懇願する響の姿は、いつもより小さく見えた。悠の中にある庇護欲をいたく刺激する。
「いいよ」
響の弱々しい懇願を跳ね除ける人間は果たしているだろうか。いや、いる訳がない。
(こうやって甘えられる存在は俺以外いて欲しくないけどな)
遠くからゴロゴロと音が聞こえ、悠の腰に絡む響の細腕に力が入ってくる。
「帰らなきゃだめなのにごめんね」
見上げるなり、窺うように向けられた潤んだ大きな猫目に、悠の中の血が騒ぎ出す。
響は悠の中の劣情を掻き立たせて、煽り倒していることに全く気付いていない。
「無理に外を歩かせるほど鬼じゃないよ」
悠は腹の中で渦巻く劣情を隠すように、穏やかな笑みを浮かべ、響の髪を慈しむように撫で続ける。
「悠くんにひっつくと安心するの……」
涙で濡れた長い睫毛を伏せる動作に、心を乱されてしまう。しかし、響は悠の心境を知らず甘えるように頬で擦り寄せる。
「……雷怖いのに、止んで欲しくないな」
独り言のような小さな呟きだったが、悠の地獄耳はしっかりと拾い上げた。
(これ以上可愛いこと言わないで)
気付けば悠は力任せに響を抱き締めていた。
「悠くん、」
響の鼓動と熱がはっきりと伝わってくる。このまま溶け合ってしまいたいのに、身に纏う布や皮膚が邪魔くさくてもどかしい。
「好き……っ」
「俺も響が大好きだよ」
どちらともなく二人の唇が重なり合った。
外は相変わらず激しい雨と雷が鳴っているが、口付けに溺れる二人の耳に届くことはなかった。
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