第27話

 出征の日。糺を見送りに来てくれたのは、ハナだけだった。

 ハナは己に縋りたいのを必死に抑え込んでいたように見えた。


 もし身ごもったなら子と共に己を待つと言ってくれたが、たった一回の行為で出来ることはそうそうないだろう。


 糺はハナに「待っていて」と伝えることはなかった。


(僕が戦地にいる間、ハナは他の男と結婚してしまうかもしれない。僕ではない男との子を成すことだろう。それでも構わない。夫になる男に先立たれるまでほんの数十年だ。ハナがひとりぼっちになった時、迎えに行こう)


 背を向けて、列車に乗り込んだと同時に、糺の無表情は恍惚とした笑みに変わり果てた。


「少し待ってて。再び逢えれば、永遠に離さないから――――愛しているよ」





 糺の独り言は車内の喧騒に紛れて消えていった。







(完)

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枯れない花【完】 水生凜/椎名きさ @shinak103

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