第3話

私は、車の中で話し始めた。

「ずっと、いつ話したらいいんだろうって、思ってて。どうしようって…」

 私が、言葉に詰まると、

「俺んちで、話そうか」

 絵斗が、車を走らせながら言った。車の中は、少し重い空気になっていた。そう、とても大事な話。本気で好きになってしまったら、絶対に話さなければいけない私の事。

 しばらくすると、絵斗が、

「うちここだよ」

 と、2階建てのアパートを指差した。建物の前の駐車場に車を停めると、

「こっちの2階」

 と向かって右側を指差した。

 車を降りて、歩き出すと、絵斗が左手を私の方に向けて、私の右手と繋いだ。私は、泣きそうだった。階段を上り、部屋の前に着き、絵斗がドアを開けると、

「どうぞ、上がって」

 と言って私の右手をひいて、私を引き寄せた。玄関に上がっても絵斗は、繋いだ手を離さず、どんどん部屋の中に入っていった。そして、テレビのあるリビングを通り抜け、次の部屋のドアを開けた。

「ここで話そう」

 部屋の真ん中にベッドがあった。そのベッドカバーに、四角の明かりがうつっていて、天井を見上げると、天窓があった。

「天窓」

 私が言うと、涙がポロっと頬に溢れた。絵斗が、

「いいでしょ?これ見せたかった」

 と、笑顔で言った。そして、ベッドに先に座り、

「凪も座って」

 と私の右手を引いた。私も座ると、絵斗が、自分の膝の上に、繋いだ手を置いた。

「泣いちゃう程、大事な話なんだね」

 と言い、私の頬の涙を右手で拭うと、私は、部屋の入り口のドアを見つめて、話し始めた。

「どこから話したらいいか、まだ整理がついてないんだけど、多分、絵斗が想像もつかない事だと思う。はっきり言えるのは、私が生まれつきの女のコじゃないって事」

 絵斗を見ると、驚いた顔で私を見ていた。私は絵斗の方を見つめる事なく、またドアを見つめて、続けて、

「19歳まで、戸籍は男だったの。小さい時は男の子でいたけど、小学生になって、自分は女のコだって気付いた。すぐお母さんに言ったら、お母さんも気付いてた。それから、病院へ行って、診察とカウンセリングを何回も受けて、女のコで生きていく事を決めた。何回か手術を受けて今、絵斗が見ている私になって、ハタチで戸籍も女のコになった。今まで、好きな人はいたけど、絵斗みたいにこんなに好きって気持ちが溢れたのは、初めて。でも、きっと嫌だよねこんな私…」

 私は、俯き、最後の方は、息が止まるんじゃないかというくらい、消えてしまいそうな、つぶやきになってしまっていた。絵斗は、ずっと私を見つめて、私の話を聞いていた。私は、絵斗に拒否されても、仕方がないと思いながら話していた。絵斗は、何も言わず私の話を聞いていてくれた。そして、

「話してくれて、ありがとう。少し驚いたけど、凪は凪だよね?」

 と私の右手をギュッと握って、絵斗が言った。私は、

「え?」

 と言うと絵斗は、私を見つめ、続けて、

「世の中的には、ちょっと変わってるかもしれないけど、凪は、凪。俺が好きになったのは、目の前にいる凪だよ」

 絵斗は言うと、私を引き寄せ抱きしめた。私が声を出して泣き出すと、背中を撫でてくれて、そして、

「頑張ったんだね、内緒にしててもおかしくないのに、よく話してくれた、ありがとう」

 絵斗は、泣き止まない私を、赤ちゃんにするみたいに、背中をトントンし始めた。

「涙が落ち着いたら、コーヒーメーカー買いに行こうね」

 絵斗が言うと私は、絵斗の顔の横で頷いた。しばらくして、泣き止んだ私が、絵斗から離れると、絵斗が、

「もう大丈夫?」

 と私の頬の涙を右手で拭いながら聞いた。

「うん、大丈夫」

 と言ったけど私は、少し声が震えていた。すると、絵斗がベッドに横たわった。その勢いで私もベッドに横たわった。天窓には、薄い雲がかかっている空が見えた。

「綺麗」

 そう言って私が絵斗の方を向くと、絵斗も私を見ていた。

「キスしていい?」

 絵斗が言ったので、私が頷くと、優しくキスをしてくれた。これが、私の大事な話への、絵斗の答えなんだと思った。

「もう、大丈夫だね。さあ、一緒にあの赤いコーヒーメーカー買いに行こう!」

 絵斗が言うと、私達は、天窓のある部屋から出て、絵斗の部屋から出掛けていった。


おわり

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スカイライト 須藤美保 @ayoua_0730

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