第48話
After story:デートと溢れた言葉
「わ!海だ~」
千里は窓の外を見ながら、楽しそうに笑う。
「きれいだね」
ガタンゴトンと、電車に揺られること約20分。
千里達は少し遠出して隣町のカフェに向かう途中だ。
「付き合って初めてのデート、楽しみだな~!」
千里の言う通り、今日は初めてのデートだ。
そしてなぜ初デートで遠出しているのかと言うと…
二人は幼馴染なため、デートでなくとも様々なところは遊びつくしているし、無意識に結構カップルらしいことはしていたのである。
例えばペアルックとか、お揃いのものを買ったりなど。
自分達が住んでるところは行きつくした…そこで、千冬はまだ行ったことのないカフェへ誘ったのだった。
「そうだね…て、もう次の駅で降りるみたい。千里、降りる準備は大丈夫?」
「ばっちり!」
しばらくして、アナウンスとともに駅へ止まり、ドアが開いた。
千里達は軽い足取りで電車を降り、改札を出る。
駅から出たところで千冬は一旦足を止め、スマホを開いて場所を確認する。
今日は自分がリードしたい…そう静かに闘志を燃やす千冬。
そんなことは一切知らない千里は、「ケーキ何食べようかな~千冬半分こしてくれないかな~」と、頭に花を咲かせていた。
「…ここから…左か。千里、お待たせ。行こっか」
「うん!ケーキ、ケーキ~!」
「…ふふっ楽しみだね」
二人は自然と手を取り合いながら、カフェに向かった。
***
「着いたー!!」
千里は目の前の店に向かって、明るい声で伸びをした。
駅から徒歩10分で着き、大通りにあるので分かりやすかった。
壁はクリーム色を基調とした漆喰だが、左側は赤レンガであり、ツタが覆っていた。
ツタはただ伸びっぱなしになっているのではなく、ちゃんと手入れされているようだった。
深緑色の木製のドアの前には看板が置いてあり、『本日のオススメケーキはチーズケーキ!』と書かれている。
「千冬!オススメはチーズケーキだって!楽しみだね」
「美味しそう…」
カランコロンと鈴の音を立てながらドアを開け、中へ入る。
「お好きな席へどうぞ」
店員にそう言われ、千里達は一番奥の席へ座った。
お店の中の雰囲気は、レトロ調で家具の一つ一つをこだわっているのが伝わる。
「何食べよう!いざメニュー見ると迷わない?!」
むむむ~と眉根を寄せながら、メニューを眺める千里。
「確かにね…でも俺はコーヒーとショートケーキかな」
「決めるの早!!うーん私は…やっぱりおすすめかな!」
二人とも決まったところで、千冬が店員に注文し、後は待つだけとなった。
「ね!これ食べたらショッピングモール行かない?!ゲーセン行きたい!」
「いいよ。…千里、最近出たっていうくまくまベアーのぬいぐるみが欲しいんでしょ?」
千冬はそう言いながら、スマホを千里に見せる。
その画面には、可愛らしいクマのぬいぐるみが映っていた。
サイズは両手で持てるくらいで、他のクマと違う特徴があるとすれば、左耳に月の飾りが付いており、”ヒーロー”と言わんばかりの赤いバンダナが首元に巻いてあることだろうか。
日菜子と千里が好きなキャラクターで、アニメもあるくらい人気のもの。
「そうだよ~!日菜子が好きだからさ、上げたくなっちゃって!」
「いいね。松村さんも喜ぶと思うよ」
「私もそう思う!」
そんなことをしばらく話していると、「お待たせいたしました~」と店員がケーキを運んできた。
千里は目の前に置かれたケーキに大はしゃぎ。
「わ~!めちゃくちゃ美味しそう!!早く食べよ、千冬!」
「うん」
いただきます、と言ってから千里はぱくり、と一口食べる。
「…お、美味しい~!さすが、千冬オススメの場所!」
「喜んでくれて良かった」
千冬も微笑みながら食べ、美味しそうに顔をほころばせている。
(…ほんとは下調べと気に入っちゃって何度か来た事あるんだけどね。ま、格好付かないから言わないけど…)
コーヒーを飲みながら頭の中で誰に言うことでもなく、暴露する。
千冬、意外と入念な準備をこっそり行うタイプである。
「千冬もチーズケーキ食べてよ!美味しいよ!」
「…ほんと?じゃあ俺のと交換でもらおうかな」
「やった!」
お互いのケーキを食べ、また「美味しい」と言う気持ちになりながら、ゆっくりとした午後を過ごした。
***
ガタンゴトンと再び電車に揺られる。
予定通りゲームセンターで遊んだり、ショッピングをしているうちにあっという間に時間は過ぎ、すっかり夕方となっていた。
先ほどまで元気に話していた千里も、疲れたのか寝てしまった。
千冬は自分の右肩を枕にして寝ている千里を横目で見、愛おしく思いながら、電車に揺られる。
と、その時。
「…千冬……好き…」
「………!!??」
突如、千里の声がしてビクッと肩が跳ねる。
驚いたままそーっと千里の方を見るのだが、それはそれは幸せそうに寝ている。
(なんだ、起きてるのかと思った……)
まだドキドキしている胸を抑えながら、千里を見た。
すやすやと眠る千里の隣に、ずっといられたらいいなと思ってしまう。
千里の頬にかかった髪を撫でながら、少し恥ずかしいけれども、千冬は…
「……俺も好きだよ」
そう返した。起こさないように、でも千里にしか聞こえないように、小さく。
恥ずかしさで視線を外す。
頬が赤くなるのが、自分でも分かった。
(早く収まれ…)
「……ふふ」
そう思っていると、また千里の声がした。
今度は確信的で、面白そうな、小さな笑い声。
「……!!」
パッと振り返ると、千里が肩に頭を乗せたまま、上目遣いでこちらを見ていた。
そして、口を開いたかと思うとーー
「私も好き!」
ふにゃりとはにかんだ笑顔に、心臓がどくんと音を立てる。
「…ちさーー」
千冬の呼びかけは遅く、千里は今度こそ本当に眠ってしまった。
(~~~~~!!)
一本、取られてしまった。
千冬は一瞬悔しそうに眉をひそめるが、やがて諦めて微笑んだ。
そして、千里の頭に自分の頭をこつんと軽く当てる。
「…千里には、一生適わないなぁ」
千冬は改めて、自分の彼女の破壊力を知ったのだった。
ラムネとカフェオレ 抹茶 餡子 @481762nomA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます