第47話

Afterstory:報告と公認


(ど、どうして私はここにいるんでしょう…!)

日菜子は目の前の光景を見ながら、今更ながらにこうなった経緯を振り返るのだった。


        ***


「…報告がしたい、ですか?」

日菜子は目の前の人物…風柳 龍也の言った言葉を反復した。

「そ!色々あって姉貴達のことは知ってるだろ?だから一応、付き合ったって言っておきたくてさ」

「な、なるほど…」

”付き合った”

と言う言葉に反応して顔を赤くさせながら、日菜子は頷く。

文化祭から少しして、日菜子達は今、屋上で昼食を取っていた。

「いーじゃん!行ってきなよ~」

そう言って後押しするのは、千里だ。

付き合ったので恋人だけで食べるかと思いきや、千里の「友情も大事!」と言うことで、お昼はこうして変わらず皆で食べているのだ。

「そう言う千里は挨拶行ったのかよ」

早速日菜子に弁当を作ってもらった龍也は、それを美味しそうに食べながら聞く。

数分前の彼は、お弁当をもらって「神様ありがとうございます…俺、いつ死んでもいいわ」などと、神を崇めていたのだが、内緒にしていてあげよう。

「千冬が挨拶したいって言うんで、一応やりましたよ~。でもなぜか皆『やっとか…』みたいな顔しておめでとう!て言ってくれたんです!なんで~!!」

納得いかない!と言う風に、勢いよくご飯を食べたものだから、千里はむせる。

「…千里が分かりやすかったんでしょ」

その実、分かりやすかったのは千冬も、と言えるが本人は上手く回避している。

千冬はむせたのを心配そうに、でもその時の光景を思い出して楽しそうに、むせた千里の背を優しくさすっている。

水の入ったペットボトルを差し出したり、ハンカチをさっと取り出す仕草は、まるで千里が”こうなる”と予知しているようだ。

その光景は幼児の世話をする母親で、ある意味いつもの、付き合う前と変わらない光景だった。

まあ、元々二人は距離感が近かったので、先輩と日菜子としても今更と言う感じだが。

長男である優が、悟った目で「ようやく付き合ったんですね。おめでとうございます」と言うのが想像できた。

「…変わんねーな、あいつら」

「ですね…」

二人を見ながら苦笑する龍也と日菜子。

「…あの先輩」

「ん?」

「…私も挨拶、行きます…!」

日菜子は決意したと言うように、両の手をぐっと握りしめて言うのだった。


         ***


その週の土曜が、今日なのだ。

(それで伝えに言ったんですが、思ったよりあっさりしてて…会話が弾むうちにご飯になったんでした…!)

性格には、今はご飯を食べる前。

あと少しでできるということで、食器だけ並べて待っている。

ちなみに、準備はもちろん龍也。

今料理を作っているのも、龍也。

家政婦な龍也である。

2人で「付き合った」と報告すると…

「…ふーん。やっとかよ」

「おめでとう〜。それより龍也、聞いてよ〜バ先の人がね…」

「おい、会話を勝手に進めるな」

…と、いつもの調子で会話が進んでしまったのだ。

お姉さん2人も、別にただ適当な訳では無い。

付き合うと思っていたからこそ、あっさりしているのだった。

「ねぇねぇ!2人はデートはもうしたの〜??」

肘をつき、両手を頬に当てながらニマニマとイタズラっ気を含む笑みを浮かべながら、鳳蝶が言う。

「…えっ?!いやっその…」

あわあわと戸惑う日菜子の目は、渦巻き状だ。

「…おい、鳳蝶姉。俺の彼女困らせるんじゃねーよ」

コトっと唐揚げが沢山盛られた皿を真ん中に置く龍也。

どうやらちょうどできたらしい。

「手伝わなくてすみません…!早いですね」

予め、ある程度作っていたのだろうか…

「龍也が作ったから味は安心していーぞ」

「うんうんっ龍也は家事能力だけは高いからね〜」

待ってましたと言わんばかりに箸を手につけ始める姉2人。

「なんだよ、だけって。他も高いだろうが」

「えっ自分で言っちゃう系〜?モテないからやめた方がいいよ…?」

ドン引きする鳳蝶。

「日菜子ちゃんがいるからモテなくて結構です〜」

そう言いながら龍也も席に着き、二人は手を合わせた。

「「いただきます」」

日菜子は早速唐揚げを取り、一口頬張った。

「……!美味しいです…!」

日菜子は目を丸くした。

外はカリッとしているのに、中は肉厚でジューシー。

肉汁が口の中で溢れ、うま味が口いっぱいに広がる。

「おっそれなら良かった~」

ほっと胸を撫でおろしながら、自身も満足そうに食べている。

「そーだ!お前ら大学出たら結婚しろよ」

楽しそうに会話しながら食べる二人を見て、京果が閃いたと言うように言った。

「「………!!??」」

そのいきなりな言葉に、二人はむせそうになる。

さすがの龍也も、これは驚きだったらしい。

「それいいわね~!日菜子ちゃんいたら楽しいし~可愛いし~。早くお嫁においで♡」

ゆったりとした口調で言う鳳蝶の言葉は、”小悪魔なお姉さん”を醸し出す。

(ぜ、絶対、日菜子ちゃん困惑するよな?!くそ~やっぱセクハラ姉貴達に報告は間違ってたか…)

心の中で後悔し始めた龍也。

しかし、そんな龍也とは裏腹に…

「……将来、そうできたらうれしいですね」

ご飯を食べる手を止め、日菜子は言う。

その表情は恥ずかしそうではあるものの、嬉しそうだった。

「ひゅー」

「かわいい~!!」

と、姉達。

(俺の彼女、可愛すぎない!?)

ふわりとした笑顔に胸を打たれた龍也は、先ほどの後悔は一瞬にしてなくなった。

そして、更に日菜子の無自覚攻撃は止まらない。

「…あ、”龍也さん”。ドレッシング取っていただけますか?」

日菜子はなんてことないように、ドレッシングを受け取ろうと手を差し出す。

「…………え??」

いつもの”先輩”呼びから、急な”龍也さん”呼び。

龍也はフリーズした。

そんな龍也の様子に、日菜子が慌てて付け足す。

「こ、ここは先輩の家ですから…!苗字一緒ですし、名前で呼んだほうがいいと思って…すみません!」

次から先輩呼びに戻しますね…とすっかり反省した様子の日菜子。

「い、いやいやいや!!戻さないで!そのままで、そのままでお願いします!……あと俺も、日菜子って呼んでいい?」

「も、もももちろんです!!」

急にぎくしゃくし始める二人。

「…ね~京果」

「あぁ」

「「……完全に夫婦だな(ね~)」」

姉達は密かに言葉をそろえ、深く頷いたのだった。

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