第3話


「あんたんとこはいいわよね~靴だから簡単に売れるケド、ドレスなんて高価だし」



「アホ言えぇ。俺のセールステクがあったからあそこまで売れたんだろうが」



まぁ伊原が豪語することだけはある。百貨店時代はカリスマシューフィッターとして伝説を残した男だ。お金持ちのマダム相手に、まるでシンデレラの王子さまのようにキラキラスマイルで売りまくっていたのだ。



影で「プリンスチャーミング」ともてはやされていたことは本人の耳にも入っている。



だけど目の前で牛丼を豪快に頬張っているカリスマシューフィッターのチャーミング王子は、お世辞にもチャーミングとはいいがたい。黙ってれば最高にかっこいいのに、何か私の中では残念な男なんだよね。






「んじゃ、いっちょ結婚でもしとくか。そしたら靴もドレスも売れて一石二鳥じゃね?」






なんて言われて私の額に本気に青筋が浮かんだ。



「あんた私の話聞いてた!?何度も言わすな!相手が居ないっつうの!」



牛丼を頬張りながら伊原を睨むと






「チャーミング王子が相手になってやるって言ってんだ。



これ以上にない幸せな姫だぜ」







と言われて、私は目を点。



「あ……はい」



としか返せず、思わず割り箸が私の手から離れた。



箸が床に落ちる前に、プリンスチャーミングもとい伊原が身を乗り出して箸を器用に見事キャッチ。



体を乗り出していたから私のすぐ近くに顔が迫っていて



思わぬ至近距離にドキリと胸が鳴った。王子と呼ばれるだけあってその顔は整っている。背も高いし、スタイルだっていい。なのにこいつに浮いた噂が無かったのは実はこいつがゲイなのか、と言う……違った噂がまことしやかに囁かれていたけれど、ゲイの線はなかったか。



と、何で私は冷静に分析してる。



‐男は囁いた。



「俺と結婚する?」



‐女は答えた



「待て!何でまだそのモノローグが続いてる!」と色々ツッコミ所満載でキっと目を吊り上げると



伊原は自分の割り箸を口に挟んだままの格好で、どこからかスチャっと靴が入った箱を取り出し



「23.0だったよな」と言いながら箱をパカっと開ける。



その中には



「まぶしっ!!」思わず目をかばうようなキラキラきれいな靴が入っていて






「俺のシンデレラになってください」






‐男は大真面目。その表情を見た女は答えた



「12時過ぎても魔法が解けないわよね」



「とりあえず、牛丼は消えるだろうな。お前の胃の中に」



「そうね」まぁ牛丼が消えたところで、目の前の伊原が消えることはない。



とりあえずOKだしとくか。







~END~



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シンデレラとガラスの靴……もとい、牛丼?? 魅洛 @miracle78

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