林間学校
第40話
駐車場に来ると、陽光はこのまま学校をサボるみたいで倉庫へと先にバイクを走らせた。
永人と二人になると、バイクに跨って私に視線を向けてくる。
「どうした?」
「何かあったら連絡。順番通りに悠貴を襲うとは限らないから」
「今のところ付けられてないから大丈夫だよ。けど、ありがとう。倉庫からの帰り道はいつも通りよろしく」
「うん」
「友達に連絡してから行くから、先に行ってて良いよ」
笑みを向けると、永人はコクリと頷いてヘルメットを被った。
それからバイクをふかして去って行く。
しばらくは永人と行動かな。帰りは心配して、私の家近くまで付いて来るかもしれない。
携帯を取り出すと、朝は気付かなかった蒼からのチャットメールに気づいた。
昨日は夜に送ってもいいかと聞いてきたけど、朝に送って来たようだ。
内容はとてもシンプルで、「おはよう」の言葉と一緒に、女子向けのゆるふわ女子のキャラクタースタンプが送られて来ていた。
蒼は女の子にこんな可愛いスタンプを送ってるんだ。
くすっと小さく笑った後に、指先で返信を打った。
「おはよう」の後にうさぎのスタンプを送ると、直ぐに既読がつく。
そして、ポンっとコメントが返ってきた。
〈遅刻?何かあったの?〉
〈友達の御見舞で病院にね。今から学校に行くよ〉
すると、返信は3件続けて返ってきた。もちろん一人は蒼からだ。
〈章と柊真が心配してる。〉
そんな内容に、他に送られてきた2件を見ると、相手は章と柊真で、どうやら誤解しているらしい。
章からは、〈病院にいるのか!?〉と来ていて。
柊真は〈身体、大丈夫!?〉と心配されていた。
蒼が二人になんて言ったか、だいたい想像がつく。
きっと、章と柊真に「美夜ちゃん病院にいるみたい」とかでも伝えたのだろう。そして、二人が早とちりしたのかも……。
私は二人の誤解を解くと、蒼には二人からメールが来たことと、「また学校で」と打って返した。
バイクを置くのに一度家に帰って、歩いて学校へと向かった。
✽✽✽
正面玄関が見えてくると、章と柊真が生徒用玄関で仁王立ちで待ち構えているのが見えた。
「おはよう。なんでここにいるの?」
思わず首を傾げると、章はすねているのか、頬を膨らませてじっと見つめてくる。
「どうかしたの?」
職員室に寄ってから教室へ行くとメールで教えておいたのに、まさか玄関にいるなんて。
すると、横にいた柊真が苦笑いを浮かべる。
「心配だっただけだ」
心配……?
誤解が解けてなかったのかな。
「最近、赤龍も俺らの地域も物騒になって来たからな。何事もなければ良いなと思ってたんだよ」
「そうなんだ」
まさか、『赤龍』と『白狼』も奇襲されているのかな。確認しておかないと。
「おい、美夜! 朝からいなくて寂しかったんだからな!」
そう言った章の口調はちょっと拗ねているようで、可愛く思えた。
ふふっと頬を緩ませながら「そっかそっか、ごめんね」と言う。
「笑うなよ!!」
「だって、まさかそこまで寂しんでくれるなんて思ってもなくて」
章ってば可愛いなぁ、なんて思っていると、どんどん顔が赤くなっていった。
……もしかして、照れてる?
「お前といると楽しいんだよ」
照れ隠しなのかそっぽを向く章に、私は少し驚いて我に返るとまたふふっと吹き出してしまった。
「美夜、お前なぁ……!」
そんな私の態度に章はさらに拗ねてしまう。
「ごめんごめん。ありがとうね」
肩を軽く叩きながら言うと、照れていた熱が首まで赤くして章は口元を隠した。
そんな章に気にせず、私は靴を脱いで上履きに履き替える。
もう章ってば、外見とのギャップがすごいよ。
まさかここまで一緒にいることを喜んでくれて、照れてる姿を見られるなんて思ってもみなかった。
「今から職員室に行くけど一緒に行く?」
「行くよ。その為に待ってたもんな、章」
「お、おう」
上履きに履き替えると、二人から今日の朝礼のことを聞きながら職員室へ向かった。
そして担任のシカちゃんに会うと、朝礼のことを聞く。
授業はとっくに始まっているので、次の時間で教室に行くことにした私たちは、いつもの場所に移動してお喋りをしながら時間を潰していた。
暫くしてチャイムが鳴ると、教室で実代子に会ってから、席に向かった。
蒼がすぐに「おはよう」と微笑んでくれる。
「蒼、おはよう」
「チッ! 何がおはようだよ。蒼に近づくな!」
本当に藍の絡みは面倒くさいな。
「近づいてないよ」
「親しくすんな!」
「それは私と蒼次第でしょ」
全く、威嚇されても困るんだけどなぁ。
「知るか! 蒼も、なんでコイツと仲良くしてんのさ!」
「うぅん……。仲良くしたいから?」
疑問符のついた蒼の回答に藍は口を開けて固まってしまった。
理由が何かあれば反対出来たのだろうけど、シンプル過ぎて答えになってない回答だっただけに驚いたらしい。
「だ……、だからなんでコイツなのさ!」
「美夜ちゃんが可愛いから」
……コホンッ。
──うん、悪い気はしないな。寧ろ嬉しい回答だ。
最高の褒め言葉に私はひっそりと照れていると、藍が冷ややかな目で見てきた。
「これのどこがだよ。ブサイクじゃん」
藍が指を差して言った悪口に私はカチンときて、つい言い返していた。
「なら、そっくりそのまま返してあげるよ」
「はぁ!?」
これ以上はガチ喧嘩になりそうなのを察したのだろう。柊真が「まーまー」と止めに入る。
「藍、女の子に向かってそれはアウトだからな」
「事実だろ」
なにが事実だっての!
憤りを感じつつも口調は淡々ともう一度「そっくりそのままお返し」と口にした。
聞き逃さなかった藍の眼光が鋭くなって、睨みつけてくる視線に、反抗して目を合わせると、章が「ステイ! ステイ!!」と両手を振って割って入る。
私は何を言われても同じ言葉を繰り返すつもりでいたが、丁度、先生が入って来て藍との口喧嘩は終わった。
そうして今日は、みんなで授業に参加していた。
夜叉姫は紅龍に愛される 五菜みやみ @ituna383miyami
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