第6話 ー 5

 リコさんを見送った後、ひよちゃんとレイカさんと別れて、俺は男とベンチに戻った。男が“卒業の日”について教えてくれるとのことだ。



 まずは、リコさんについて教えてもらった。


 綾野梨子さん、高校1年生。

 彼女は学校の屋上から飛び降りたらしい。



 ずっと虐められており、友達と呼べる人もいなかった彼女。



 高校に入ってからも状況が改善されずに担任に相談したところ、「虐められるのはお前自身のせい」だと、酷くとがめたらしい。


 それが直接的な原因。





 男はふぅ……と溜息をつき、空を仰いだ。



「まず、ここに来る前提条件から話そうね。条件は“自分が死んだことに気がついていない”ことと、“何らかの未練”があることだよ。そして、“卒業の日”を迎える条件は“ここへ来た時の未練”が無くなること」

「未練……」



 未練って言うけれど……。



「何で自分が死んだことに気がついていないのに、未練があるんだよ」

「鋭いね〜白崎くん。君、嫌われ者じゃなかった?」

「はぁ? 失礼だな、お前。賢いって言ってくれる?」



 俺に向かってニヤッと微笑み、男はまた正面を向く。

 遠くで楽しそうに遊んでいる生徒の姿を眺めながら、また言葉を発した。



「生前、誰だって思いや願うことがあったでしょ。それは夢でも何でも良いけれど、『ああしたい』『こうなりたい』って。その思いが強い人ほど、この世界に呼び寄せられる。そしてその思いを僕が救い出し、“未練”として“記憶の再構築”を行うんだっ」



 だっ、じゃねぇよ。

 やっぱり意味が分からない。


 けれどそんな俺は理解が出来ないまま、男の話に黙って耳を傾け続ける。



「先程のリコさんは、『友達を作って楽しく過ごしたい』というのが願いだった。ここでの生活で……レイカさんとヒヨリさんと過ごす中で、その想いが満たされた時に“卒業の日”は自然とやってくる」



 男の話を聞きながら、ふいにひよちゃんの姿が頭に浮かんだ。



 ひよちゃんの“未練”って、何だろう。



 ……ていうか…………。



「なぁ、俺ってもしかして、その“卒業の日”を迎えられない?」



 “記憶の構築”もしてなければ、“死んだことに気が付いている”俺は、どうなる?


 率直な疑問を投げかけると、意外にも男は真顔になってゆっくりと首を傾げた。



「いや、そうなんだよ。君が何でここに来れたのかを色々調べていたんだけど、原因が分からないんだよね」

「てことは……?」

「君がどうやったら“卒業の日”を迎えられるのかが分からないってコト!」

「…………」



 ってコト! じゃねぇよ!!


 テヘッという言葉が似合う表情をしているこの男。

 ムカつく……。ムカつくけれど……。




「分かった」

「ん?」

「俺、ひよちゃんとこの世界でも恋人同士になって、ひよちゃんが“卒業の日”を迎えられるよう、尽力するわ」

「……え?」

「ひよちゃんの未練が何かは分からないけど、良いだろ?」

「……」

「その過程で俺の”卒業の日”もやってくるかもしれないし」

「…………」



 何故この人は、苦虫を噛み潰したかのような顔をしているのか理解出来ないし、何ならしようとも思わないけれど。



 そうだ、そうしよう。

 元の世界では、ひよちゃんが俺に告白をしてくれたから。





 今度は、俺の番だ。







(side 白崎蓮斗 終)

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笑顔のレクイエム 〜いつまでも、あなたの隣で〜 海月いおり @k_iori25

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