第51話

「お前が初めて人間の街で買い物を体験したときに買ったんだ。」


「そうそう。本当は中身もたくさん入れたかったんだ。でもそこまでは買えなかった俺にリッタ様は言ったんだよ、“これからはこれに宝物を入れさせてもらう”って。」


美しい微笑みに、ウィードは仕舞いたいと思った。

いつか宝物部屋を作って、大好きなリッタを仕舞いたいと。

ウィードが5歳前後の事だった。



「あぁ。宝物を入れている。」

「ほんと?」


「開けてみて良い。」


リッタが言うと、目を輝かせたウィードはそっと箱をテーブルに置く。

留め具を外して開ける。


拾って間もないウィードが拾った虹色に輝く魔鳥の羽根、ウィードが覚えたての人間の文字を使って書いたリッタへの手紙、似顔絵。

箱の中身はウィードに関係するものがほとんどだ。


しかしウィードは見覚えの無い真紅のリボンを見つける。

ところどころ褪せていたり変色していて、とても古そうだった。



「これは?」


「それは勇者のだ。そんなところに有ったか。」


「前の?」


明らかに声が低くなった。

消し炭にでもしかねない。そう思ったリッタはウィードの名を呼んだ。


「ずっと気になっていたんだが、前の勇者は女だ。」


「へ?」


「多分お前は勇者を男だと思っているだろうがな。」


目を見開いているウィードに先程驚かされたリッタの気分が良くなった。

そしてベッドに腰を下ろして脚を組む。



「精神的にも肉体的にも強くて勇敢だったってことしか聞かされてないよ?!」


信じられないとでもいうようにウィードはリッタを見つめているが、嘘をついたって仕方がない事だ。



「人間の本には男として描かれていたからな。人間にとっては、女より男のほうが都合が良いのかもしれない。」


ウィードはリッタの方に足を進める。



「だからお前が嫉妬を覚えなくとも…」


言い切らないうちにリッタの身体はふわりとベッドに倒れていた。

それがウィードによるものだとすぐに理解する。


ウィードはリッタの上に跨って見下ろしている。


おい。私は魔王だぞ。そんな言葉が出ないのは、ウィードが口をひん曲げているからだ。



「覚えるよ。男だろうが女だろうが雄だろうが雌だろうが関係ない。」


「な、ぜ今押し倒す?」


「なんか分かってないよね。だから教えてあげなきゃかなって。」


「なにを?」


「どれだけ俺がリッタ様が好きかと、嫉妬深いか?」


「なぜ疑問形?…ぁ、やめ……」


「やめてほしいの?ここ硬くなってるのに?下はどうなってるの?」



ウィードは、二人のだけときにしか見せない意地悪な顔で微笑んだ。

そうすればもう、快楽に弱いリッタに抗う術はない。


END.

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選ばれし勇者と優しい歯車論【完】SS不定期更新 バニラ味(サイト転載であたふたしてる) @vanilla_flavor

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