第60話

世界に色を失っていた己がこんなにも、激しい恋をするとは思ってもみなかった。





















————————宿命————————



















甘く激しい口づけを交わしながらそんな言葉が頭を過ぎって、漸く理解する。








己の宿命とは、何なのかを。









宿命は、前世から生まれ持ったもの。






生まれる前から決まっていたもの。














—————————島津を守りし龍となれ。








その天命を受け入れて生きて行くことが、私の宿命だと思っていた。








今日までは。













だけど、違った。






今、はっきりとそう感じる。
















龍のように島津を守るという天命をありのままに受け入る。





そしてそれを受け入れることによって巡り逢った姫に…生まれて初めての恋をした。







それは、我を忘れる程の。






色の無かったこの世界を変えてしまうほどの。







そんな恋を。








…………………春の姫に。











それこそがきっと私が生まれる前から決まっていた




 















———————————私の宿命。


















理解して、観念してその熱に溺れてしまおう心の全てを解放する。






もしかしたら私は、愛しいこの姫を守るための龍になる日が来るかもしれない。







島津の為といいながら。






この姫を守りし龍となる日が。









…なんて、馬鹿なことが頭に過ぎると同時に目の端に舞う桜の花弁が映る。







はらはらと。










「………久保…さま…?」








動きを止めていた私を呼ぶ声に、意識を戻して愛しいその頬を撫でて微笑んだ。












これから桜を見る度に、きっと何度でも思い出すのだろう。


 





桜の盛りのこの夜に交わした約束を。







そして今宵の桜に、誓おう。










私はどこまでも。










——————叶え続けていく、と。












               


               【完】

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玉響の桜・番外編〜宿命〜 はる @anyomo

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