第59話

「…さっきは宗家の姫にそんなことはできないと言ったが…」














そっと亀寿を褥に押し倒す。







できるだけ優しくしたい。







抑えられない衝動の中でそれだけは忘れないように、必死で残りわずかな理性にしがみつく。










「…もう…私の姫、だから…」













だから…もう。





許されるだろうか。






その白い肌に、触れること。

 






思うままに。






ただ本能の…赴くままに










それでも理性を掻き集めて優しく唇を奪うと、亀寿はそっと目を閉じる。






その柔らかさに、もう止めてやれそうにないと思う。







無様にも。










「…亀寿…」








糸のような理性を手繰り寄せて、一度尋ねる。








これでもしも貴女が嫌だというなら、もう先には進まないから。








ただ…誰よりも大事にしたいから。








 


「…嫌では、ないか…?」











こんな…男の汚らわしい欲望に抱かれること。







すると静かな声が響き渡った。








 




「……嫌なわけがありませぬ…」






 




その顔の横に突いたこの腕に、亀寿はそっと触れた。


























「…夢のようでございます…。





早く…全て貴方様の妻に…してください…」





















あぁ、もう。





貴女がいけないんだ、姫。







美しく微笑んで、男を狂わせるようなそんなことを言う貴女が。



  




亀寿が言い終わると同時に、微かに残っていた蜘蛛の糸のような理性なんて一瞬で全て吹き飛び、誘われるようにもう一度その唇を奪う。







先程よりも激しく、甘く。






口づけながら本能のままに荒々しくその     帯を解いて、暴いていく。







全て私のものだ思うと、この衝動は増すばかり。









貴女の全てを暴き触れることができるのは。








例え私が死んだとしても、夫である私だけで在りたいと…浅ましく、思う。

 







私だけだと、その美しい身体に刻み付けていく。





 




愛しい桜舞う中で交わした…








————————落下流水の約束と共に。

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