第40話 9月-④ よっしーの告白(5)
「なんで一ノ瀬が謝るの?俺、応援してくれて嬉かったよ!」
「でも、力になれなくて」
ただ期待だけさせてしまった。
「なったよ!プレゼントすげぇ喜んでくれたし!まあ、結果はダメだったけど今までどおり友達として楽しくやっていこうと思うからさ」
「でも……ごめんなさい……」
「あーうん……あのさ、謝られると余計に傷つくし。今は一ノ瀬のこと慰める余裕ないし」
よっしーの言葉に息が止まりそうになる。わたしは何やってるんだろう。励ますどころか傷つけた。友達として最悪だ。
「ごめん!今の八つ当たり!」
何か言うべきなのはわたしなのに。嫌な気持ちにさせたのはわたしなのに。こういう時、きっと美紀は明るく励ましてくれる。優しく寄り添ってくれる。きっとそういう美紀だから、よっしーみたいな真っ直ぐで優しい人に好かれるんだ。
「待っててもらって悪いんだけど、今日は一人で帰るわ」
「よっしー」
「本当に応援してくれて嬉しかったから、ありがとう一ノ瀬」
またよっしーが笑ってくれる。いつもと変わらない、周りをハッピーにするような笑顔で「また明日!」と手を振ってくれる。わたしはその手を振り返すことしか出来なかった。
誰もいなくなった体育館裏で、どうしようもなく涙があふれ出てその場にしゃがみこむ。自己嫌悪。そればかり頭に浮かぶ。こんな風に泣く自分が酷く醜い人間に思えて、このまま消えてしまいたい。こんなわたしを誰にも見られたくない。そう思ったのに、近づいてきた足音がわたしの前で止まった。
神様は、わたしにちっとも優しくないらしい。でももしかしたら、こんなわたしへの罰なのかもしれない。だってこんな展開、何かの罠としか思えない。どうしていつも、ヒーローみたいに現れるの?
「一ノ瀬さん」
その声がわたしを呼ぶ。
「一緒に帰ろうか」
この一週間挨拶しかしてくれなかった。目も合わせてくれなかった。それなのに今、ハル君がわたしの前に居る。
「どうして?」
どうしてハル君がここにいるの?
「一ノ瀬さんが泣いてる気がしたから」
ああやっぱり、何かの罠だろうか。だけどもう止められなかった。どれだけひどい現実が待っていたとしても、明日はもう口をきいてもらえなかったとしても、それでも今はこの罠に落ちてもいいと思った。
「ハル君!」
その瞬間、ハル君の心臓の音が大きくなったのは、わたしがその胸に飛び込んだからだ。ブレザーの間のシャツに縋るように耳を寄せたからだ。隙間なく聞こえる音は、どちらの鼓動かもわからない。もうどうなってもいいと思った。背中に回した両の手は、溢れ返った感情の渦で小さく震えていた。
「一ノ瀬さん」
その声が耳朶を撫でた。だから一気に現実に引き戻される。今すぐ離れないと。そう思ったわたしの背中にハル君の手が触れたのは「抱きしめてもいい?」と聞かれる数秒前のことだった。その胸の中で頷いた時には、わたしの身体は苦しいほどに抱きしめられていた。
息をする度にその距離が近づいている気がする。背中に回した手に力が入って、きっとハル君のブレザーに皺を付けてしまっている。こんなことダメなのに。
「ハル君、急にごめんなさい」
「一ノ瀬さんが泣き止むまで、こうしてあげる」
「でも……」
染まる頬はきっとハル君からは見えないだろう。
「いいから、いっぱい泣いて」
涙が止まらなければいいなんて勝手なことを考えたらまた涙が溢れた。
よっしーに、友達として何も出来なかったのに、全部自業自得なのに、こんな風にハル君に甘えてる自分が最低だと思った。こんな状況ですら、やり場のない恋心に浮かされていることに恐怖すら覚えた。きっともうどうしようもない。
どうしようもないほどに、わたしはこの恋に溺れている。
君の罠 卯花かなり @unohanak
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