第39話 9月-④ よっしーの告白(4)
三人で恋愛の話をしたことはもう何度もある。どんな人がタイプか、どんなデートに憧れるか、同じ学校の誰と誰が付き合っているか、そういう話題で盛り上がったことだって数えきれないくらいある。でもその話題の真ん中に美紀がいることはあまりない。告白をされたという話題くらいで、美紀からの矢印はいつも存在しない。
「うーんとね、緑に話したくないわけじゃないの」
「え?」
「好きな人のこと」
そう口にした美紀は、いつもと変わらない明るい笑顔を見せる。でもどこか寂し気に見えるのは気のせいだろうか。
「美紀、好きな人いるの?」
「もうずっと前からね。でもあまりにその時間が長くなり過ぎて、これが恋なのか執着なのか自分でもわからなくなってるんだ。悠子や緑みたいに全然キラキラしてない。だから、うん……この話はまたそのうちね!」
ここでお終いと言うようにポンと手を叩いた美紀は、「それより写真撮ろう!」とスマホを取り出し始める。だからわたしもそれ以上は聞けなかった。悠子の方を見ると、「大丈夫」と言うように優しい笑みを返してくれた。悠子と美紀は中学の時から仲が良かったから、もしかしたら悠子は何か知っているのかもしれない。それが少しだけ寂しくも思えたけれど、今は美紀の「そのうち」を待とうと思った。
わたしたちはそれぞれ恋をしている。それは楽しいばかりの恋じゃないかもしれないけれど、きっと傷ついた時は二人がわたしの手を握ってくれるから、わたしも二人の手をどんな時も離さずに守りたい。
◇ ◇ ◇
週が明けて、よっしーが美紀の告白をする水曜日がやって来た。あれからハル君とは相変わらずで、挨拶くらいしか言葉を交わしていない。
「一ノ瀬、俺今日頑張るからマジで!」
昇降口で靴を履き替え、階段を上り教室へと向かう途中の廊下で、よっしーに後ろから声をかけられた。それから告白に向けての決意を話すよっしーに、わたしは相槌を繰り返すのがやっとだった。美紀の口から好きな人がいることを聞いてしまったわたしは、この告白の結末をよっしーよりも先に知っていることになる。罪悪感で胸の奥がチクチクするけれど、全部わたしの浅はかな行動が招いた結果だ。今さら、告白を止めるようになんて言えるわけもない。
「放課後ヒマならさ、告白終わるまで待っててくんない?」
「え、わたしが?」
「そう。まあどういう結果でも一ノ瀬に一番に報告したいからさ」
そう言ってピースサインを向けたよっしーの笑顔が眩しくて、わたしはその頼みを断ることも出来ずに「わかった」と答えて笑った。
そこから放課後まではあっという間に感じた。時間がゆっくり進めばいいのにと考えるほどに一時間が早く感じて、お弁当の味も覚えていられないほど、罪悪感だけが積もっていった。
よっしーは教室に誰もいなくなったタイミングで告白をすると言っていた。わたしは美紀に見つからないように体育館裏のベンチに座って待つことにした。よっしーがどんな風に美紀を呼び出したのかはわからない。でも絶対にたくさんの勇気を出して行動している。そんな彼に、ここで何を言えばいいのだろう。体育館から響くボールの音が、わたしを責め立てるように響いた。
「一ノ瀬、お待たせ」
どれくらい経っただろうか。わたしは聞こえた声に勢いよく立ち上がった。視線を動かした先には、いつもと変わらない笑顔のよっしーが居た。でもその瞳がわずかに、悲しみで揺れているように見える。
「やっぱ、ふられちゃった」
明るく振舞う声が、微かに震えて聞こえた。
「あの、わたし、ごめんなさい」
考えて考えて……なのに口から出た言葉は結局それだった。
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