第38話 9月-④ よっしーの告白(3)

「それってヤキモチじゃないの?」


 ハル君の二人で保健室に行った日の出来事を一通り話し終えたわたしに、美紀は不思議そうに首を傾げて聞いた。


「ヤキモチ?」

「そう。二学期入ってから緑と里中仲良いでしょう?それが青山君は嫌なんじゃない?」


 確かに里中君とはあのボーリング以前はあまり二人で会話をすることもなく、同じグループとはいえ距離があった。でもあの日一緒のチームになったり、成り行きとはいえ互いの想い人を知ってしまったりで、一気に仲良くなった自覚はある。と言っても基本いじわるしか言われないけど。でもそれがどうしてハル君のヤキモチに繋がるのかがわからない。


「ハル君が嫌がる理由がないよ……」

「え?それは青山君が緑を好きだからでしょう?」


 ハル君が、わたしを好き?


「それはないよ!!」

「なんで?」

「だってね、ハル君は好きな子がいるから新山さんと別れたんだよ?それって私が知り合う前の話だよ!だから絶対ない!」

「でも嫉妬以外に説明がつかないわよ、彼の行動?」

 

 慌てるわたしとは反対にどこまでも冷静な悠子がそう言うと、美紀も「そうだよ!」と賛同して頷く。だけど、わたしにとってはやっぱり夢物語にしか思えない。ハル君には私と出逢う前から好きな人がいて、いつも優しいのは友達だからで、悠子や美紀にだってハル君は優しい。


「きっとあの日は機嫌が悪かったんだよ。それか私が何か気に障ることしたとかで……嫉妬とか好きとか、そういう話では絶対ないよ」


 もしそうだったらと考えないわけではない。一瞬頭に浮かんだことはある。でも次の瞬間に自己嫌悪する。だってそうじゃなかったら傷つくだけだ。一人で勝手に相手の気持ちを妄想して盛り上がって期待して、それで違っていたらショックを受けるなんて恥ずかし過ぎる。だったらそんなありえないことは最初から考えない方がいい。友達として一緒に居られるだけでも幸せなのだから。


「じゃあ青山君の気持ちは一旦置いておくとして、緑はいつ告白するの?」

「告白……告白!?」

「うん。だって好きなんでしょう?」

「それは、そうかもだけど、告白なんてしないよ!」


 本当に考えてもいなかった。だから驚きながら否定すると、二人は「なんで?」と声を揃えて聞いてきた。


「だってハル君には好きな子がいるんだもん!告白しても振られるだけだよ!」


 その事実を口にした瞬間、よっしーのことを思い出した。美紀への気持ちを教えてくれた友人にかけた言葉を思い出した。応援したいと思ったのも、よっしーなら美紀の気持ちを動かせるんじゃないかと思ったのも本心だ。心からそう思った。でももしそれが期待を大きく膨らませていたら……ううん。あの時のよっしーはキラキラしていた。わたしの言葉に喜んでくれて、告白への自信や期待を膨らませていた。わたしが膨らませた。ダメだった時のショックの大きさなんて、あの時のわたしは考えもしなかった。自分は告白する勇気も覚悟もないくせに。


「……美紀は、恋しないの?」

「え、美紀?」

「うん。美紀のそういう話って聞いたことないなと思って」


 わたしのその問いに、美紀は最初こそ驚いた様子だったけれど、すぐに「たしかに」と呟くと、何かを考えるように黙り込んだ。こんな風に美紀の気持ちを探ろうとしている自分のずるさが嫌になる。ずっと聞けなかったことを、こんな風に聞くなんて。


「美紀の話は面白くないから、きっと聞いても退屈だよ~」

「そんなことないよ!美紀はモテるのに全然彼氏作らないでしょう?それってどうしてかずっと気になってた。美紀にも好きな人がいるのかなとか、彼氏がいるけどわたしには言えないのかなとか……友達だからどんな話でも知りたいって思うし、友達だから聞いていいのかも迷って、聞けないままでいるだけで、わたしだって本当は美紀と好きな人の話で盛り上がったりしたいよ」


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