第37話 9月-④ よっしーの告白(2)


「別に吉村が告白するのは自由よ。でもね?そこで私たちみたいな美紀に近い人間が応援したら、誰だって期待しちゃうでしょう?“一ノ瀬が言うなら大丈夫な気がする”って」


 それはまさに昨日言われた言葉。


「……どうしよう悠子」

「まあ、もう仕方ないわよ。二日後に全力で慰めてあげれば?」


 悠子に言われた全てが正しくて、無神経だった自分に幻滅する。


「私から言わせれば……自分の恋愛すらどうにも出来てないのに、人の恋愛に首突っ込んでどうするの?青山君と何かあったんでしょう?」

「なんで急にそんなこと」

「わかるわよ。保健室行った日から、二人ともおかしいでしょ?」


 ハル君の仮病で保健室に行ったあの日から、わたしたちは朝の挨拶くらいしか交わしていない。その挨拶の時だですらハル君は目も合わせてくれなくて、明らかに避けられているのがわかる。


「あーもう!泣かない!教室戻れないでしょ?」

「泣いてない……」


 今にも涙が溢れそうなわたしの頬を悠子がやさしく抓る。


「今は吉村の話よりも緑の話!放課後、美紀も誘って行くよ!」


 その誘いに頷くと、「ほんと手がかかる。あんたも美紀も」と呆れたように笑いながら、悠子がわたしを頭を撫でた。



◇ ◇ ◇



 放課後、悠子と美紀と三人で訪れたのは、学校から歩いて20分程の距離にあるカフェ《ジェリービーンズ》。学校の最寄り駅とは反対方向にあるせいか、うちの高校の生徒の姿はほとんどない。だけど生クリームたっぷりのロールケーキや見た目も可愛いパフェが人気なこの場所は、近くの私立高校の生徒や大学生でいつ来ても賑わっている。を知ったきっかけは、実はここが悠子のお兄さんのアルバイト先だからであり、月に一度は三人でこの場所を訪れている。


「うわー今日も藤花の生徒ばっかだね」

「うん。いつ見ても眩しい」

「あの子すごいキレイ」

「え、どの子?」

「そんなことより何頼む?」


 いつも通り店内を物色するわたしと美紀に、悠子がメニューを差し出す。

 中二階に位置する広めのソファ席は、周りに他の席もないので会話を聞かれる心配もない。わたしたちが行く日は、悠子のお兄さんが予約席として用意してくれているおかげで、人気のこの場所に座ることが出来る。


「悠子は何にするの?」

「うーん。アップルパイにしようかな」

「じゃあ、美紀はぶどうのパフェにしよー」

「二人とももう決まったの?」


 すでにドリンクメニューへ移る二人に焦っていると、悠子のお兄さんが注文を聞きにやって来た。


「注文決まった?」

「緑がまだ決まってない」

「なら、ロールケーキの限定にしなよ」


 そう言って、お兄さんが薦めてくれたのはハロウィン限定のかぼちゃのロールケーキ。チョコレートのアイスも添えられている。


「美味しそう!それにします!」


 ようやく注文を終え、ドリンクとケーキが運ばれてくるまでの間、今日の授業中に起きた他愛もない出来事の話で盛り上がる。暫くするとドリンクが運ばれてきて、それぞれがグラスにストローを挿したところで、悠子が本題を切り出した。


「まず、認めてもらってもいい?青山君のこと好きなのよね?」


 直球の質問に少し迷ったけれど、意を決して頷くと、隣に座っていた美紀が「認めたー」と声を上げて抱き着いてきた。その嬉しそうな反応に、今まで黙っていたことを今更ながら申し訳なく感じた。

  

「それであの日は何があったの?」


 いつから?なんてありきたりな質問は飛ばし、保健室に行った日のことを聞く二人は、本当にずっとわたしのことを見守ってくれていたのだろう。今もただの恋バナがしたくて聞いているのではなく、わたしの話を聞くためにこうして時間を作ってくれている。だから、隠さず全部話そうと、二人に話を聞いて欲しいと思えた。

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