9月‐④ よっしーの告白

第36話 9月-④ よっしーの告白(1)


「あれ?一ノ瀬?」


 一週間の罰ゲームを終えた日曜日。珍しく家に帰ってきていた兄と一緒に訪れたショッピングセンター内の本屋で、一人ファッション雑誌を眺めていると、突然声をかけられた。


「あ、よっしー」


 振り返った先に立っていたのは、鮮やかな紫色のパーカーを着たよっしーだ。


「やっぱ一ノ瀬だった!買い物?」

「そう。あっちにお兄ちゃんがいる」


 一緒に来ている兄は、仕事に関わる本を探しているらしい。


「よっしーも買い物?」

「うーん。俺はなんて言うか……」


 いつも元気溌剌なクラスメイトが気まずそうに目線を彷徨わせるから、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと不安になる。だけど何かを決意したのか、よっしーが勢いよくわたしの方を見た。


「あのさ、澤村って何が好きかな?」

「……美紀?」


 突然登場した親友の名前に驚きつつも、すぐにその意図を理解した。


「もしかして美紀の誕生日プレゼント探してるの?」


 そう。来週はわが親友、澤村美紀の誕生日だ。新学期が始まってすぐに悠子と二人で、お互い何を上げるか相談していたけれど、こうしてクラスメイトの彼も美紀のためにプレゼントを考えてくれていると思うと嬉しくなる。


「女子って何が好きかわからんから、本屋来たらなんかわかるかなと思って」


 そう話すよっしーの顔が、どんどん赤くなっていく。


「よっしー、もしかして美紀のこと……」


 わたしと会って少し気まずそうだったのも、買い物の目的を言い淀んでいたのも、顔が真っ赤なのも、もしもよっしーが美紀に対して特別な感情を持っているのなら納得だ。

 

「……一ノ瀬、顔にやけ過ぎ」

「わーごめんね!でも本当にそうなら嬉しくて」


 大好きな美紀のことを想ってくれている人が身近にいると思うと、ついつい嬉しくなってしまうのだ。


「まーそういうことだから、なんかアドバイスくれよ」

「あ!それならあっちに美紀も好きな雑貨屋さんあるから一緒に行こうか?」

「え、いいのか?」

「うん。お兄ちゃんまだ時間かかるだろうから、わたしも暇だったし」

「ありがとう!マジで助かる!」


 それから急いで医療関係の書籍が並ぶコーナーにいたお兄ちゃんに事情を説明して、よっしーと一緒に本屋を離れた。


「そういえば、一ノ瀬は休みなのに夏生と会わないのか?」

「……え?なんで里中君?」

「だってお前ら付き合ってんじゃないの?」

「よっしー、それ騙されてるよ」


 まさかあの日の話題をよっしーがまだ信じていたとは。だから改めてそれを否定すると、よっしーは里中君やみんなへの文句を口にしながら笑う。

そう呆れる私をよそに、よっしーは里中君に対する文句を呟く。


 まだ仲良くなってから半年も経っていないけれど、よっしーの性格の良さは一緒に居るとどんどん伝わってくる。いつも明るく元気なのはもちろん、クラスの行事や部活にも真面目に取り組み、いつもみんなを引っ張ってくれる。本当にクラスの全員と仲が良いのは、たぶんよっしーだけだろう。それくらい色々な子たちと盛り上がっている姿をよく見る。

 ハル君や玲君みたいな所謂イケメンとは違うかもしれないけれど、背が高くて運動神経も抜群なよっしーは、部活の後輩女子から人気だと聞いたこともある。そんなよっしーは美紀ともお似合いに違いない。

 それを想像すると、特別でもなかった休日が一気にキラキラ輝く素敵な一日になった。



◇ ◇ ◇




 そして翌日、月曜日の昼休み、わたしは悠子と二人で女子トイレの鏡の前に居た。


「何言ってるの?そんなのとっくの昔にクラス中が気づいてるわよ」


 前日の出来事を話したわたしに、悠子は呆れたように言う。

 あれからよっしーと雑貨屋に行き、良さそうな物をいくつか絞ったところで、あとは自分で決めるとよっしーが言うので、わたしは本屋へと戻ることになった。その時に、村上君経由で悠子にもプレゼントの相談をしていたから、二人はよっしーの気持ちを知っているのだと教えてもらったのだ。


「吉村が美紀を好きなんて見てれば分かるでしょ?今まで気づいてなかったことが奇跡よ」

「そうなの!?でも誰もそんなこと言わなかったから」

「それは無理なのが分かってるから、みんなあえて触れなかったのよ」


 何とも言えない表情の悠子が鏡に映る。


「無理って、どういうこと?」

「緑……あんたまさか、応援するとか言ってないわよね?」

「……えっと」


 思わず視線を逸らしたわたしを、悠子が見逃すことはない。


「馬鹿じゃないの!?美紀が吉村に興味ないのわかってるでしょ?」

「だ、だって!よっしーすごく真剣に美紀に告白するって言うから、応援したくなっちゃて!」

「あーそう、プレゼント渡して告白する予定なのね」


 自分が喋り過ぎたことに気づき、急いで両手で口元を隠すけどもう遅い。


「でも……よっしーの気持ちを聞いたら美紀も心が動くかもしれないでしょう?よっしー性格良いし……」


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