花嫁修業は野菜作りから

私の目には高い天井の木目がぼやけて映っていた。


「マイマイちゃん…目覚めたみたいだよ」

キューちゃんがぼーっとした顔を覗き込んで言った。

 

キューちゃんの言葉で3人の動きがピタッと止まる。


「いったい…ここは…」

(え…しかも、何で私はジャージを着ているんだろ……

横肩から伸びた白色の2本線。しかも上下お揃いの赤のジャージ。

ジャージを着るなんて中学生以来だわ。ダサイ……)


私は何がどうなっているのかわからないまま、呆然となった頭で

その身を起こす。

辺りをキョロキョロと見渡すと、私と同じような体格をした女子達が

一列に並ばされている。はっきりとした数はわからないが、見た感じ

ざっと100人はいる。


(え、何? これは? 何かの儀式か何かしら……もしかして、

太い肉付きのいい女子達を集めて何かする気? ひょっとて、

モテない女子達の恋のお相手をしてくれる…とか? ―—なワケないか……

イケメン男子にも選ぶ権利があるだろうし…。あ、もしかして…

これは…生贄いけにえ? 虐待? 仕打ち? 私達、モテない女子達を

使ってウップンを晴らそうってこと? 私達はストレス解消の道具か?)


「時間がない。マイマイちゃんはこっち」


私はおぐちゃんに手を引かれ一番左端の一番前に連れて行かれた。


その間、他の女子達の羨ましそうな視線を感じていたが、私は

彼女達の視線を感じないようにしていた。

私自身、今、起きていることがまだ把握できていなかったからだ。



ちょうど私が女子達の列に並ばされた時だった。


大広間の扉が「キィー…」と開いたーーー。


女子達は頬を赤くして彼らに視線を向ける。


プリンスを先頭にしてマドリ―、キャロット、ギネス、玉ちゃんが

入室して来た。


『ホッ、間に合った…』

凪助、ピーヤン、おぐちゃんが一息つけた後、プリンス等が並ぶ前に出て行く。

その後に続き、キューちゃんはゆっくりと出て行く。



「ようこそ、フォルスフッドシェアハウスへお越しくださいました。

私がこの洋館の管理者をしているプリンスです」


「きゃあああ…プリンス王子…」

女子達はまるで推しを追っかける信者の様に彼らに洗脳されていた。


「君達にはこれからここで花嫁修業をしてもらいます」


え、花嫁修業?


「ここで過酷な試練を耐え抜くことができれば、きっと君達は

幸せを手に入れることができるでしょう」


ついさっき見たプリンスとは喋り方も振る舞いも全然違っていた。

あれは幻だったのかと思うくらい 今、目の前にいるプリンスはまさに

王子様のような優しい笑みを浮べていた。


ドキッ…思わず私の心も揺れ動く。


「それでは、君達の世話をしてくれるスタッフを紹介します。

凪助から宜しく」


「はい。トップバッターに選ばれて何から話せばいいのか

まだ考えていませんでした。凪助です。宜しくお願いします」

【まとめ役のメガネ系男子・根は真っすぐでコツコツ努力家タイプ】


「おぐちゃんです! みんな宜しくね」

【女の子大好きなアイドル系男子。恐竜オタクでお調子者】


「ピーヤンだ」

【片目だけ黒の眼帯をしているちょっと変わっている中二病と

思われがちなチャライ系男子】


「キューちゃん…」

【普段はぼーっとしているくせにいざとなったらケンカが強く、

頼りになる男。一番力持ち】


「玉ちゃんです」

【ムードメーカー。いつも物事を冷静沈着に判断し行動力がある男】


「キャロットです。宜しく」

【女の子みたいな可愛い顔をした男子。根は強気なタイプ。

プリンスを慕っている】


「センちゃんです」

【マイペースでおっとりしているが食べるのがメッチャ早い】


「ギネスです」

【クールで頭の回転が早い。天才的頭脳の持ち主】


「マドリ―です。宜しくね」

【いつもメイドの格好をしている可愛い系男子。外見は女、中身は男】


 


キャロットさんって……実は男だったんだよね!?


私の目は自然にキャロットさんを追っていた。


しかし…このジャージって………

もしかしてキャロットさんが着せてくれたのだろうか…


それに、頭から全身にかけてものすごーくいい匂いがする。

これは石鹸の香りだ。だとすると、キャロットさんが私の身体を

洗ってくれたの?


かああああああああ……思わず赤面した。


顔と体中がポカポカと温かくなってきた。

湯気が頭上から吹き出している。


あかん…どんな顔をすればいいのかわからない……



思い出すと恥ずかしくなる。



まあ、いったん浴室でのことは忘れよう……



「あの…花嫁修業って具体的に何をするんですか?」



あ、それ…私も気になっていた…


「よくぞ質問してくれたな15番」」


へ? 15番?


私はプリンスの最後の『15番』っていう言葉が気になり、

覗き込んで見た。私以外の女子達の胸元には数字が入った

名札を付けられていた。


もしかして、番号がついてるの?


私は自分の胸元を見る。ーーーが、そんな番号はつけられていなかった。


どうして!?



「花嫁修業…それは野菜作りからだ」


はい!?



「君達は野菜を作ったことがないだろう…俺達の師匠からUSBメモリを

借りてきた。3日で野菜作りのノウハウを覚えてください」


そう言って、プリンスとマドリ―、キャロット、センちゃんは退室していった。

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ようこそイケメン独身男子の洋館へ~花嫁修業は野菜作りから 神宮寺琥珀 @pink-5865

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